第25話:みんなで家族になろうよ!


「まさか、真凛ちゃんがお父さんと一緒に隣の部屋に引っ越してくるなんてな」


「はい。真凛も、びっくりです。さっき聞いたら、パパも知らなかったみたいで……」


 あの後。どうせなら一緒に夕食でもどうかと、真凛ちゃんを俺達の部屋に招待し。

 今はみんなで、お好み焼きパーティーを開催している。


「驚いたのはボクの方だよ。晴人と真凛ちゃんが親戚だったとは」


「偶然って怖いな。いや、今回の場合は喜ぶべき事だけど」


 ホットプレートの豚玉をひっくり返しながら、俺はつい笑みをこぼす。

 可愛い親戚の女の子と近くで暮らせる事が、嬉しくて堪らないのだ。


「…………」


 しかしなぜか、先程から真凛ちゃんの元気が無い。

 一体、どうしたのだろうか?


「もしかして、お好み焼きは嫌いだった?」


「あっ、ち、違うの! お好み焼きは大好きだよ! 10枚は食べたいくらいに!」


 俺が声を掛けると、真凛ちゃんは慌てながら両手をブンブンと振る。

 10枚……という部分に関しては、とりあえず目をつむるとして。


「だったら、何か気になる事でもあるのかい?」


「あぅ……それは、あうあう……」


「真凛ちゃん。俺達に遠慮は要らないよ。言いたい事があれば、正直に言ってほしい」


「……うん」


 来夢や俺の言葉で決心が付いたのか。

 真凛ちゃんは大きく息を吸い込んでから、キリッとした表情になる。


「真凛はお邪魔虫さんに、なってない……かな?」


「「お邪魔虫?」」


「だって、晴人お兄ちゃんと来夢さん……付き合っているんでしょ?」


「「へ?」」


「だからぁ……こうして、真凛がここにいたら、うぅっ……!」


 そこまで言って、真凛ちゃんは涙を流し始める。

 どうやら、とんだ勘違いをさせてしまっていたらしい。


「真凛ちゃん、俺達は……」


「一つ、聞いてもいいかい?」


 誤解を解こうとした俺の言葉を遮り、来夢が真凛ちゃんに問いかける。

 来夢、どういうつもりだ?


「君のその涙の理由はなんだい? 晴人に彼女がいた事が悲しい……というのかな?」


「そ、それもある、けど」


「けど?」


「でも、真凛は晴人お兄ちゃんが幸せなら、それが一番だと思っているから……それを邪魔しちゃったのなら、ひっく、ぐすっ……うぇぇぇぇぇっ!」


「……ククク。そうかそうか。君はそういう子なんだね」


「ふぇ?」


 来夢は泣き出した真凛ちゃんの元に近寄ると、彼女を優しく抱きしめる。


「泣かなくてもいい。ボクも同じさ。晴人が幸せを一番に考えているんだ」


「来夢、さん?」


「君のような子なら大歓迎だよ。同じ志を持つ者同士、一緒に晴人を幸せにしよう」


「……真凛、ここにいてもいいんですか?」


「ああ、勿論だとも。晴人の妹なら、ボクの妹でもある。これからはボクも君の家族にしてもらえると嬉しいね」


「うんっ! 来夢お姉ちゃん……!」


 涙を止めた真凛ちゃんが、来夢を姉と呼び……彼女を抱きしめ返す。

 俺はそんな尊い光景を見ながら、華麗なヘラ捌きで豚玉をひっくり返していた。


「というわけだよ、晴人」


「な、何が……というわけ、なんだよ?」


「いくら鈍感な君でも、ここまで言えば分かると思うけどねぇ。まぁ、慌てる必要も無いから……ここは豚玉に免じて見逃してあげるが」


「…………」


 来夢が言わんとしている事は理解出来る。

 俺だって、そろそろ自分の気持に決心を付けたいとは思っているのだが……今までずっと大親友だと思っていた来夢をいきなりそういう目で見るのに戸惑いがある。


「やれやれ。夜景の見えるロマンチックな場所で告白される……なんて状況はまだまだ遠そうだ」


「あれ? もしかして、二人はまだ付き合っていないの?」


「そうだとも。だから真凛ちゃん、先に君が晴人と結ばれても構わないよ」


「えええっ!? ま、ままま、真凛がお兄ちゃんと?」


「ああ。晴人を幸せに出来る人間なら、誰が彼と結ばれようと構わないし」


「あうあうあうあうっ……!」


「もしそうなったら、ボクの事を見捨てないでくれると嬉しいんだけどねぇ」


「そ、それって?」


「ボクは二番目でも三番目でも大丈夫、という事さ」


「はぅーっ!?」


「おい、それ以上真凛ちゃんをからかうんじゃない」


「冗談ではないのだけれどねぇ」


「あばばばばっ……! ささっ、さんぴぃ……!」


 来夢の言葉を真に受けたのか、真凛ちゃんの顔は真っ赤だ。

 やれやれ、小学生になんて話をしやがるんだアイツ。


「ごめんね、真凛ちゃん。ほら、そろそろ焼けたから、どうぞ」


「は、はひぃっ……!」


 そう言って俺がお好み焼きを切り分け、真凛ちゃんの皿に乗せる。

 そこにソースとマヨネーズ、更には青のりと鰹節をふりかけて、完成だ。


「美味しそうっ!」


「豚玉の他にも、シーフードやチーズ。広島風も作るから、どんどん食べてね」


「わぁぁぁぁっ……! 楽しみっ! あーむっ! もぐもぐもぐっ!」


 目をキラキラさせて、四分の一カットのお好み焼きを一口で頬張る真凛ちゃん。

 相変わらずの食いっぷりだ。


「ふふっ……これでは妹というより、娘みたいだねぇ」


「ああ、そんな感じもするな」


「良い予行練習になりそうだよ。いずれ産まれる、君とボクの子供の為の」


「おいおい。そりゃまぁ、子供が欲しくなる光景ではあるけども」


「ん? 今夜仕込めば、最短で十ヶ月ほどで産んであげられるが?」


「……高校生でママになるつもりかお前は」


「ククク……それも悪くないねぇ」


 艶っぽい表情で舌なめずりしながら、妖艶に笑う来夢。

 思わずその仕草と表情に、俺はドキッとしてしまう。

 

「ちょっと! 晴人お兄ちゃん! おかわりはまだですか!?」


 しかし、テーブルをバンバンと叩く真凛ちゃんの呼びかけですぐに我に返る。

 いかんいかん。完全に手が止まっていた。


「ああ、ごめん。すぐに次を焼くよ」


「ありがとう! でも、次は真凛にも手伝わせて!」


「いいよ。ほら、お好み焼きのタネを一緒に作ろう」


「ククク……ボクはキャベツの千切りを追加してくるよ」


「デカ盛りお好み焼きを作るよーっ!」


「ああ、こらこら。そんなに大きいと焼きにくいから。もう少し小さくしなさい」


「はーいっ!」


 こうして俺達は、お好み焼きパーティーを堪能した。

 ちなみに真凛ちゃんは本当にお好み焼きを10枚、ペロリと平らげてしまった。


「はふぅーっ、お腹いっぱいかも」


「……お腹がすごい事になってるね」


 大量のお好み焼きを食べた結果。

 真凛ちゃんのお腹はボテッと大きく膨らんでしまっていた。


「ククク……晴人。あのお腹の子の父親は君かな?」


「だーかーらー! そういうネタはもうやめろっての!」


「晴人お兄ちゃんとの子供……あうあうあうあうっ!」


 真凛ちゃんという新たな家族の登場で、なんだか以前より騒々しくなったな。

 でも、それは全然嫌な事じゃない。

 仲の良い家族達と楽しく、笑い合って過ごす。

 こんな日々こそが、俺が追い求めていた理想なのだから。

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