第15話:金髪お嬢様とデート?(withヤンデレシスターズ)
「晴人。今日はバイト探しをしないのかい?」
「んー……どうしようかなぁ」
春休みも半ばに差し掛かり、段々ゲームにも飽きてきた頃。
たこ焼きパーティーを来夢と共に堪能し、満腹となった腹を擦っていると……不意に来夢がそんな話題を切り出してきた。
「おや、以前はあれほどバイトしたいと言っていたじゃないか」
「そうなんだけど。既に2回も、アイツらに邪魔されているからさ」
新しいバイト先を見つけても、また迷惑を掛けてしまうんじゃないか。
そう思うと、少しモチベーションが下がってしまうのだ。
「かといって、仕送りだけで生活するのは嫌なんだろう?」
「まぁな。はぁ……とりあえず、接客業はやめておくか」
コンビニもラーメン屋も、姉妹が客として来たから問題が起きた。
つまり、アイツらが介入出来ないようなバイトならイケるって事だ。
「何かアテがあればいいんだがねぇ」
「いや、一応あるよ」
「え?」
「実はラーメン屋を辞める時、先輩と連絡先を交換したんだ」
「先輩……? それって、例の美人な金髪さんの事かい?」
「ああ。バイト経験が豊富そうだったから、色々と相談に乗ってもらおうと思ってさ」
「……へぇ。君が自発的に、女の子の連絡先を……」
我ながら名案だと思っていたのだが、何故か来夢は不機嫌そうに眉をしかめる。
まぁ、親友が知らないところで交友関係を作るのが面白くないのだろう。
「折角だし、今から連絡してみるか」
「……」
「……出てくれるかな」
俺はスマホを取り出すと、通話アプリを使ってミスティさんに電話を掛ける。
すると、わずか3コールほどでミスティさんは出てくれた。
『もしもし? 晴波君ですの?』
「はい。ご無沙汰しています。今、お時間大丈夫でした?」
『ええ。ちょうどお昼休憩中で、食事を終えたところでしたわ』
「休憩中にすみません。実は、アルバイトの件で相談したい事がありまして」
『相談? ええ、ワタクシでよければ構いませんわよ』
「ありがとうございます! それじゃあ、いつ頃予定が空いていますか?」
『それでしたら、今夜辺りはどうかしら? 一緒に夕食でも食べながら、お話しを伺いますわ』
「分かりました。じゃあ場所は……はい。ええ。大丈夫です。それじゃあ、また後で」
待ち合わせの予定も無事に決まり、俺は通話を切る。
よし。これで今夜はミスティさんからアルバイトについて話を聞けるぞ!
「…………今夜、外食するのかい?」
「ああ、ごめん。今夜7時から、駅前のファミレスで待ち合わせになったよ」
「……そうか。じゃあ、今夜は久しぶりに孤独な食事を楽しむとするかねぇ」
ここ最近はずっと、朝昼夜――来夢と一緒に食事を取っていたからな。
来夢には寂しい想いをさせてしまうが、いずれはこうなる運命なわけで。
「あれだけ綺麗な人と一緒に食事かぁ。少しはマシな格好で行かないと」
俺は慌てて、荷物の入っている旅行カバンを漁る。
前に家から持ち出してきた服が何着か、ここに入っている筈だけど……
「ふぅん……? やれやれ、これは参ったねぇ」
俺が旅行カバンを漁っている裏で、来夢は目を細めながらスマホを取り出す。
そして、俺に見えないように素早くタップを繰り返し……一つのメッセージを、とある人物へと送信する。
「ククク……馬鹿とヤンデレ姉妹は使いよう……といったところかな」
『今夜7時。駅前ファミレス。晴波晴人が美女と密会』
たったこれだけのメッセージで、来夢の目的は達成される。
なぜなら、あの姉妹がこんな状況を見過ごすわけがない。
必ずや妨害工作を行う。
彼女はただ、その後押しをするだけでいい。
「ごめんよ、晴人。でも、許してくれるだろう? だってボクはこんなにも、君の事を愛しているんだから」
クスクスと微笑む来夢の邪悪な笑顔に、俺は気付かない。
愛する人を手に入れる為なら、手段を選ばずに、どんな事でもする。
彼女にもまた、流れているのだ。
あの姉妹達にも負けず劣らずの、ヤンデレ血統因子が。
【夜7時 駅前のファミレス】
「すみません。お待たせしましたか?」
「いいえ、ワタクシも今来たばかりですわ」
予定通りの時刻に待ち合わせ場所へ到着した俺は、ミスティさんと合流してファミレスの中へと入った。
そして席に付き、メニュー表を広げながら……まずは軽い談笑を交わす。
「うーん。客としてファミレスに来るのは随分と久しぶりですわ」
パラパラとメニューを開いて見ているミスティさん。
その私服は、白い縦セーターに黒のフレアスカートといった、実に清廉な雰囲気。
彼女の気品ある美貌と相まって、こんなありふれたファミレスがまるで……超高級なレストランのように見えてくる始末だ。
「ファミレスでもバイトをしているんですか?」
「ええ。勿論、このお味ではありませんけれど……あっ、コレにしますわ。ブロッコリーのギガンティックミーティア風パスタ!」
「なんだか、随分と個性的な名前のパスタですね」
「このファミレスでしか味わえない限定メニューみたいですわ。ワタクシ、そういうのに目がありませんのよ!」
キラキラと目を輝かせながら、ミスティさんは両手で拳を握る。
そうなると、彼女の大きな胸が両腕に挟まれて強調されて……うぅ、直視出来ない。
「アナタは決まりまして?」
「じゃ、じゃあ……これで。ミックスグリル……定番メニューですけど」
「好きなのを選べばいいんですのよ。それじゃあ、注文を入力しますわね」
テーブル脇のタッチパッドを使って、ミスティさんが注文を入力する。
こういうのを率先してやってくれる辺り、やっぱりミスティさんは優しい人だなぁ。
「……それで、本題なのですけれど」
「ああ、そうでした。実は、ミスティさんにアルバイト選びの相談に乗ってもらいたくて」
「ええ。それはすでに聞いていますわ。しかし、その前に……こちらからも質問がありますのよ」
そこまで言って、ミスティさんがじぃーっと俺の顔を見つめてくる。
な、なんだろうか?
「アナタの姉と妹。そのどちらも、どこか様子がおかしい感じでしたわね。アレは一体全体、どういう事なんですの?」
「それは、あまり……」
「先に言っておきますけど、そこを説明して貰えない限り……ワタクシはアナタの力にはなれませんわ」
言い淀む俺に、ミスティさんはピシャリと厳しい声色で言葉を被せる。
「紹介したアルバイト先に、わざわざ火種を送り込むような事になりかねませんもの。ですから、相談に乗るかどうかはアナタの事情を聞いてからでないと」
「そう、ですよね。分かりました……全て、お話しします」
赤の他人に、あの姉妹達の話をしたくはない。
しかしミスティさんにはすでに二度も、アイツらのせいで迷惑を掛けている。
ここはちゃんと事情を説明しておくべきだろう。
「そもそもの始まりは――」
こうして俺は、ミスティさんに全てを話す事にした。
これまで俺がどれだけ、あの姉妹達にいじめられてきたのか。
実の姉妹だから、家族だからと我慢し続けてきたが……血が繋がらないと知った事で、俺はアイツらへの期待と愛情を失った。
そしたら急に、アイツらが手のひらを変えて俺に甘えるような態度を取ってきた事。
俺はそんな姉妹達を許せず、家を飛び出し一人暮らしを始める事を決意した。
だから生活費を稼ぐ為に、アルバイトを始めようと思ったのに……あの姉妹達は俺のアルバイトまで邪魔しに来やがった。
「……なるほど。そういう事情でしたの」
「はい……」
俺の説明を、ミスティさんは最後まで静かに聞いてくれていた。
そして俺が全てを話し終えた途端。
彼女はテーブルの上に身を乗り出すと、両手を広げ……俺の頭をギュッと自分の胸へと引き寄せた。
「わだぐじぃっ! がんどうじまじだわぁぁぁぁぁっ!」
「もぎゅっ!?」
どたぷんっと、俺の頭はミスティさんのおっぱいセーターの谷間に沈み込む。
や、柔らかいっ! いい匂いがする!! でも、息が……!
「ああ! アナタはなんて健気なんですの! 可愛いですわ! 愛おしいですわ! 守護りたいですわっ!」
「もがっががががあ……!」
おっぱいの感触と呼吸困難の苦しさ。
まさに天国と地獄。この言葉がこれほど相応しい状況があるだろうか。
「分かりましたわ! このミスティ・クラウディウス! 全身全霊! オールボディ・オールゴーストでアナタの力になって差し上げましてよ!」
「…………もきゅ」
俺がおっぱいの中で埋もれ死にしそうになっている、ちょうどその頃。
俺達が座っているテーブル席から、二つほど離れたテーブル席で。
「あのクソパツキン……! 晴くんに何をしていやがるのよぉ……!」
「あー、久しぶりにキレそう。これはもう、ヤるっきゃないわよねぇ?」
「晴人兄が可哀想……あんな気持ち悪い脂肪の塊に挟まれて」
「このままじゃにぃにぃが穢されちゃう……そんなの、許せないにゃ!」
座っている全員がニット帽、サングラスにマスクという怪しげな格好をしているという怪しげな集団。
晴人の事を死ぬほど愛している4人の姉妹達が、激しい怒りを燃やしていた。
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