第1920話 消去

機種変して使わなくなったiPhoneやiPadをショップに持ち込むと


マスクをして角刈りの、ランニング途中みたいな格好の60代のオッサンがいて


持ち込まれた何かを店員Aが査定中だ


俺はその隣の受付で店員Bに品物を渡し、査定が始まった


その間、オッサンはチラチラと周囲を気にしているように見える


簡単な質問に、ただ小さく頷いたり軽く首を振ったりするだけ


たまにチラッと自分の左上、目線の先にある店内カメラを確認する


怪しさ満載やないか

盗品でも持ち込んだか?


ただ、店員Aの会話の端々に聞こえる金額が「300円」


遠足のおやつやないか・・・金に困ってるのだろうか


「買い取り除外品」とか言われてる付属品もあり、大した額にはならんようだ


店員A「では身分証明をご提示願います」


オッサンがマイナンバーカードのようなものを渡す


それを受け取りPC確認中の店員A


「あの・・・以前にもご利用頂いたみたいでして、その際こちらから請求書が届いておりませんでしたか?」


「えっ?」


「お名前で検索しましたところ、登録されているご住所に、以前持ち込み頂いた製品についてお支払いが完済されておらず、買取額との差額9000円の請求書をお送りさせて頂いたのですが、そちらがまだ未払いのままのようでして」


「あ、住所変わって・・・」


「・・・引っ越されたということですか?」


「いろいろあって・・・」


「そうですか、こちらですね、未払い分のお支払いを戴けませんと、今回のお取引が出来ないことになってまして」


「えっ、でも受け取ってないから・・・」


「お引越しの際、新しいご住所への郵便の転送は掛けられなかったのですか?」


「・・・・・・」


「いずれにしましても、そういったことですので、こちらの製品は一旦お持ち帰りいただきまして、お手続き後にまたお越しいただければ・・・」


「あの!わたし刑務所いたんです緊急逮捕されて!半年、家帰れなくて!だから受け取れなかったんだと思います!」


「はぁ・・・」


その後、店員Aを相手に


逮捕の瞬間・余罪・昔の仲間・好きな酒・好きな女のタイプなどを延々と語ったオッサンは(俺はその間、隣で査定を受けている)


「いや~長々とごめんね!これから頑張ります!皆さんも頑張ってください!ありがとう!」


買い取りしてもらえなかった品を抱えて去っていった


店員A・店員B・そして俺・・・それぞれの心に何の感情も湧かなかったため


この7分間の出来事は自動消去された


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