第1598話 俺は、これから

沖縄でネイルサロンをしていた、俺と同い年の沖縄美人


そのうち銀座で店を始める予定なの、と前々から言っていた


彼女はユタ(霊媒師・巫女)の家系で、銀座で店を始めるのは神の御告げだという


はじめは、そういうギミック(霊的なもの)を付けた店をするのかと思っていたのだが


実際には彼女の占いというか心眼というか、それが本物だということが徐々に広まり


運勢を見てもらいたい・邪気を払ってもらいたいと、紹介されて来店する客も増えてきた


彼女の師が凄い方で、彼女にも手に負えないほどの客の邪気を、沖縄から電話越しに祓ったこともあったそうだ


そんな彼女から、オープンしたての頃に


「Tさんは、う~ん・・・今は言わないでおくわ」と言われかけたことがあった


実は別の女性からも似たようなことを言われ

https://kakuyomu.jp/works/16816927861385549272/episodes/16816927862939820032


気にはなったのだが「運勢が良くないから、今は言わない」のだろうと解釈し、結局聞けずにここまできた


店は順調だった


営業を始めて2年目に、パトロンが付いたとの噂もあった


が、全盛期は銀座に2店舗を構え、どちらも盛況と思っていたのはお客さんだけで


実際の経営はというと、従業員からは散々な言われようだった


まあ、それも仕方ない


水商売の経験が皆無であるにもかかわらず、その世界を知った風にスタッフにうるさく言う割には


自分自身どうなの?という行動が多かったのだ(他の客が居るにもかかわらず、目当ての男性に露骨に色ボケするとか)


そして1番の問題が「モアイ」


モアイといっても像ではなく、模合(もあい)といって


沖縄では慣例として今も様々な場で行われている、ユニオン(組合・集団)内での積立のことだ(という名目の飲み会でもある)


通常天引きされる社保などの他に、1万だか2万だかを「模合」と称して差っ引くのだ


この積み立ては、誰かに何かあった場合に取り崩して渡す


あるいは受け取る順番を決め、ある程度貯まったら、その順に渡すというパターンもある


そんな沖縄の慣習を、沖縄県民ではない従業員に当て嵌めようとするのだから、そらぁ文句も出る


おそらく面接時にモアイの説明なんてしていないのだろう


「『そんな話聞いてません!払いませんよ私!』と女の子が言えば『嫌なら辞めて貰ってかまわない』な~んて言ってましたから」とは、元キャスト女性の談


2店舗目を始めて1年経ったあたりから、そんなママの悪い噂が銀座界隈で流れだした


キャストは何とか日替わりで、派遣の女の子で廻していたが


行くたび行くたび女の子が変わる(すぐ辞める)ので、感情移入できない客たちは次第に遠退いていった


ママは銀座の夜の派遣女子からも総スカンを喰らい


最期には「なんで銀座のラウンジが外国人部隊なの?」という場違いな空間になってしまい


コロナのあおりもあって、遂に2件とも閉めることになった


神から与えられた超自然的な力を持ちながら、自分のことは占えなかったようだ


そんな彼女から、店を閉める前に来てほしいと連絡があり伺った際に


唯一残っていた日本人の女の子とママが言い合いになった


もう最期だからと、その女の子もキレ気味だ


「わたし間違ってますか?!わたしとママのどちらが正しいですか!」言い寄られた俺は


店の絶対君主がママであることは分かっていたが


ここにきて未だ自分の過ちを認めず、全く反省しないママがあまりにも幼稚に映ったので


「ママもちょっと思い込みで言い過ぎや」と釘を刺す


次の瞬間


「Tさんは黙っていて!ていうかこの際だから言います!Tさんは、これから!」


そこまで言って


「・・・何でもない。とにかくTさんは黙っていて!」


言いかけた"何か"を飲み込んだ


それって長年、俺に見えていた「凶兆」を腹いせにブチ撒けようとしたのか?


俺はこれから、何だというのだ・・・


その日の帰り、千疋屋本店の前で思い切り転んだが・・・それじゃないよな?

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