第1158話 ユキエ姉ちゃん

この話は「菊一文字」https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860625905616/episodes/16816927861617008850

「久木田のオカン」https://kakuyomu.jp/my/works/16816927860625905616/episodes/16816927861685463382と並ぶ地元3部作なのですが


はっきり申し上げて、犯罪です。


懺悔の意味を込めて載せますので、皆様ご了承ください。



俺の実家は一軒家で、勉強部屋は庭に面した1階にあったのだが


庭の向こうは高さ1.6mほどのブロック塀を隔てて、隣のS家


俺が小4の、初夏のある夜のこと


いつものように、暑いので窓を開け、網戸にして学校の宿題をしていた


隣家も窓を開けているので、S家の会話がかすかに聞こえてくる


午後7時・・・S家の、風呂場のボイラーがブゥ~ンと稼働する


隣はお風呂か・・・


特にそれ以上何も思わず、窓際の机で宿題をしていた


そのうち


「ユキエ、お父さんまだみたいだから、あなた先に入んなさい」


「はーい」


そんな会話が聞こえてきた


ふーんユキエ姉ちゃんが一番風呂か・・・


俺の思考が、そこで止まっていればよかったのだが


ユキエ姉ちゃんって高校1年やったっけ・・・


ピンクレディーのミーちゃんそっくりやし、可愛いよなあ・・・


そうか、ユキエ姉ちゃん今からお風呂か・・・


そこまでボーっと考えて、ふと右手の庭をみる


風呂場、あそこか・・・


幅7メートルの庭の向こうに、風呂場の小窓が見える


灯りが付いていて、どうやら窓が開いている


ふーん、あの塀なら登れ・・・?!


俺の心臓がドキンとする


ちょ、ちょっとちょっと??


姉ちゃん今から風呂入る → 窓開いてる → 塀は登れる?!


いやいや見つかるって。


いや見つかるの前にアカン!そんなこと!


そのうちS家の風呂場からカチャンと戸の開く音がして、続けてガラガラガラと浴槽の蓋を除ける音が聞こえる


"今いかないと間に合わない"


まだ親父は帰ってきていない・・・


オカンは親父の晩御飯の用意をしている・・・


弟は台所で絵本を読んでいたはず・・・


俺はまず、勉強部屋の電気を消した後、網戸をソーッと開けた


ツッカケを履き、意を決して庭を小走りで歩く


後ろの勉強部屋を振り返りながら、風呂場の窓の手前まで来た


再度、後ろを振り向き、人気のないことを確認した後、塀に手を掛ける


心臓はバクバクだ


フンッと両手で、鉄棒に乗っかるような感じで塀の一番上に腹を乗せる


再度、後ろを振り向く・・・誰も見ていないっ!


湯気の漏れる風呂場の窓をソーッと覗いてみる・・・


ああっ!!いきなり!!


素っ裸のユキエ姉ちゃんが横切る


うわわ!!!

み、見えた!!!!

見えてしまった!!!!!


思い切って更に覗き込む(塀とS家の壁との間には、60cm幅の通路がある)


椅子に座り、まさに、かけ湯しているユキエ姉ちゃんの上半身が見える!!


そのときツッカケがブロックに当たり、ガッと音が出た


俺は慌てて背後に飛ぶ


気付かれたかな?!


心臓はバクバク言い続ける


しかし風呂場では引き続き、かけ湯の音がする


よかった・・・気付かれてない!


子供ながらに、ここで欲をかいてまた壁に登ると大変なことになる気がした


俺はそのまま忍び足で部屋に戻る


初めて見たナマの女性の裸(オカン除く)・・・


興奮を通り越し、体がパンッ!と割れそうな気がした


それから数回、俺はノゾキを繰り返した


風呂の入り方(音や空気感)で、お姉ちゃんだと判別出来るようになった


そして・・・


ある日とうとう、自分だけの秘密にしておけなくなった


夏休み、水曜日の解放プールで、普段つるんでいた仲間5人についつい喋ってしまった


「えっ俺も見たい!」


「絶対バレへんのか?」


「胸おっきい?!」


たかだか10才ではあるがサカリのついた仔犬だ


静かに話せ!と注意しても皆、興奮が勝ってしまい


「それなら連れていけ!」


「今晩!今晩行こうや!!」


今まさに鎖を解けと言わんばかり


収拾が付かないので


「わかったわかった!日にち決めるから!」


というわけで週末金曜日に、俺の家で晩御飯も兼ねて勉強会をする、ということになった


そんな不純なことのために、オカンに6人分の晩飯を作らせるはめになり心苦しかったのだが・・・


金曜日がやってきた


夕方4時に集合して勉強、5時から晩御飯、6時からまた勉強。そんなスケジュールだ


河野、東田、山脇、久木田(#270)、木下・・・順番にカバンをもってやってきた


「お邪魔します」


「みんな、いらっしゃい!しっかり勉強しなさいよ~美味しい唐揚げ作ったげるからね~」


そんなウチのオカンに目を合わせられない5名


部屋に入る


簡易テーブルを組み立ててあったので、適当に座り、それぞれカバンの中身をぶちまける


「なあ・・・ホンマにやるの?」


「そらあ宿題ぐらいはやっとこうや」


「いや、やるっていうのはその・・・ホンマに見るの?」


「じゃあなんで来たの!見たいんやろ?!」


「・・・・・・・」


皆、ちょっとビビってきた


「とりあえず7時過ぎまでは何もないから、ちゃんと勉強しようや」


「そうやね・・・」


「えっと、国語って何ページからやったっけ・・・」


そんな感じで勉強会が始まった


皆、無言。


普段はヤンチャ坊主ばかりなのに。


真面目にノートを拡げて鉛筆を走らせる姿を見ていると、自分のことを棚に上げて笑けてくる


そして夏休みの宿題は思いのほか捗り、あっという間に夕飯の時間になる


食事を終えて応接で少し休憩し、5時50分になった


「そろそろ続きやる?」皆を促す


「やろうか・・・」


「おばちゃん、ごちそうさまでした!」


勉強部屋に戻り、戸を閉める


後半も黙々と宿題をこなしていたが、そのうち時計が7時を回った


「そろそろやで」


全員が緊張の面持ち


「ええか、打合せ通り、初めは俺と河野な」


「次がフトシ(東田)とワキ(山脇)で」


「最後が久木田とキノ(木下)な」


「ええか?オカン来そうになったら暑い!暑い!って言うんやで、みんな!」


最後の打合せを終え、後はいつものように定刻どおり、姉ちゃんの風呂タイムを待つ


7時10分過ぎ、風呂場のボイラーがボッと付く


・・・・・!


俺は無言で庭の外を指さす


"もうすぐや!"


全員、なぜか中腰で待機


5分ほど経つ・・・俺らは緊張の中、その時を待っていた


カチャッ


風呂場の戸の開く音


「よしっ行くでっ」


俺は河野の肩を叩き、裸足で庭に出る


夜空が澄みすぎて、月が必要以上に明るいのがイラッとくる


足音を忍ばせ、壁に近づく


まず、俺が手本を見せる


よっ!と壁に跳び上がり、風呂場の小窓を覗く


なかなか視界に現れなかったが、ビンゴ!ユキエ姉ちゃんが確認できた


視界に入ってくる16才の裸体・・・


あっ、今日はそんなことしてられんのや!パッと、静かに飛び降りる


そして河野に耳打ちする


「今の感じや。見えへんからいうて無理して覗いたら、見つかってまうからな!」


緊張の面持ちでウンウン頷く河野


「よし、行きやっ」俺が囁くと同時に、河野が勢いよく壁に跳び上がる


後ろを振り返ると、待機組が餌を待つヒナのように、身を乗り出してこちらを見ている


引っ込め!引っ込め!手で合図するのだが、何を勘違いしたのか皆ウン、ウンと頷く


"アホッ!誰か部屋の扉見とけよっ!"


そうこうしていると河野が降りてきた


興奮した顔で俺を見る


「見えたか?」


無言で何度も頷く河野


俺は部屋を指差し、2人ダッシュで戻る


タオルで足裏の土を拭く河野に、矢継早の質問が飛ぶ


「どうやったん?!」


「見えたんか?!」


皆の問いに、ウンウンウンウン頷くだけの河野だったが、ようやく口を開く


「見えた見えた見えた!!」


「もう早よ、のけ!!」


東田と山脇が、河野を押しのける


待ちきれない第2組が庭に飛び出す


「絶対見つかんなよっ」背中に声を掛ける


ヘマしそうで不安なので付いていこうかとも思ったが、勉強部屋の扉も気になる


交互を見やり、俺は気が気でない


今頃になり、蚊に噛まれまくった腕と脚が痒い


・・・そうこうしていると2人が戻ってきた


「ホンマに見えた・・・」


「あの人めっちゃ綺麗やん!」


興奮しっぱなし


そしてトリを飾る2人、久木田と木下が庭に降りた


河野、東田、山脇の3人は無言で宙を仰いでいる・・・


おそらく残像を追いかけているのだろう


俺は部屋の扉と久木田・木下ペアを交互に見ながら神経を尖らせている


久木田が最初に壁に飛び上がり、目標を達成したのだろう、降りると興奮ぎみに木下の背中を叩いている


ラスト、木下が壁に飛び上がる


なかなか思うように見えないのか、体を右や左に大きく振っている


その時だった


S家から突然「ワワワワワン!!」犬が吠えた


ドスン。


あっ!と思った瞬間、木下が壁のむこうに落ちてしまった


風呂場でジャージャー流れていた湯の音が止まる


慌てて戻ってくる久木田


塀の向こうでは落ちた場所から走り去る音、そして門扉をガシャン!と越えた音


「お母さん!お母さん?!」風呂場からはお姉ちゃんの叫び声


久木田を部屋に回収し直ぐに網戸を閉めたが、我々は顔面蒼白・・・


「どうしよ、どうしよ!」


「あいつ捕まったらばれる!」


「いや、門から逃げる音したで?!」


「ターちゃん(俺)犬のことなんか言わんかったやんか!」


「違う違う!隣の犬は家の向こう側で飼われてるの!たまたま吠えただけ!それを木下が・・・」


その時、部屋に近づく足音がして扉が開き「誰か何か叫んだ?」オカンが顔を出す


「いやいや、誰も!」


「あ~俺ドリル20ページ進んだ~!」


「もう帰ろかなって言うてたん!」


ふーんそうかいな・・・オカンが怪訝そうに扉を閉める


「心臓止まるか思った・・・」河野が呟いた瞬間、閉まったドアが再度ガッと開き


「コーヒー入れたろか?」再びオカンが顔を出す


「いえ、いいですいいです!」


「うん、僕らもう帰ります!」


全員が要らないと手を振る


「ふーん、わかった」そう言ってオカンは扉を閉める


ぶっふぁぁ~!!全員の身体から力が抜けた


時刻は7時半過ぎ


「帰ろ、今すぐ」


「木下どうすんの?」


「多分そのまま帰ったやろ」


ひとまず解散することにする


すぐに帰り支度をし、木下を除く4人は玄関に向かう


そこで俺はオカンを呼ぶ


「もうみんな帰るってー」


台所から出てきたオカン


「なんや皆慌てて?そうかいな帰るんかいな、なんやお構いも出来んでねぇ~」


「いえいえ美味しかったです!」


「お邪魔しました!」


礼を言うと4人はそそくさと出ていった


「あれ?・・・4人だけやったか?」オカンが気づく


「あっ木下が急いでて。先に帰ってん。ご馳走様でしたって言ってた」


「ふーん・・・それやったら」


「なに?」


「この靴、誰のんな?」


・・・あっ?!


「それは、あの、久木田・・・久木田に貰ったん」


「こんな履きさし、貰うたんかいな」


「うん、俺が、それ欲しいって前から言ってたから」


「・・・あんた何か隠してへんか?」


「隠してへん隠してへん!」


「正直に言い!木下くんさっき部屋に居らんかったで?!あんたら皆でイジメたんとちゃうか?!」


「違う違う!!」


「アンタら木下くんの靴、隠したんやろ!!」


「してない!隠してない!!」


「じゃあ今から木下くん家電話しよか!!」


「ホンマに違うんやって~!!」


その時、家のインターホンが鳴りオカンが出る


「はい。あーSさん今晩は~・・・えっ?ちょっと出るわ」


「後でもう一回聞くから!」そう言ってオカンは外に出ていく


ああっ!もうあかん!!


Sさんのおばちゃんにバレたんや・・・


俺はこの時、このまま家出しようと思った記憶がある


数分してオカンが外から戻ってきた


「あんた!!」


俺は観念した「はい・・・」


「勉強してるとき、窓開けてたか?!」


「開けてた」


「何か聞こえんかったか?!」


「・・・え?」


オカンが言うには、先ほどS家に泥棒が侵入したらしい


そしてユキエちゃんが入っていた風呂場を覗いていたのだという


実は最近、この界隈では空き巣被害が多発していて、それが出たのじゃないかということであった


「ええ~っ?!ほんならウチの庭に居たかも知れへんの?!めっちゃ怖いやん!!お姉ちゃん大丈夫やったん?!」


「うん、ユキエちゃんは"見られたぐらい減るもんじゃない"て元気にしてるみたい」


「良かったね~それなら」


「良くないわアンタ!さっきの続きや!木下くんイジメてたやろ!!」


「だ~から!いじめてないって!!」


翌日、木下家に電話を掛けた


案の定、裸足のまま、家まで忍者走りで帰ったそうだ


川遊びしていて暗くなり、靴を何処に置いたか分からなくなったと親には話したらしい


知恵の回るヤツだ・・・


ウチのオカンに電話を代われと言われ、靴の件がバレないかと冷や汗をかきまくったが


イジメられてないし、靴も取られていないと、木下は上手く説明したようだ


そして後日


覗きの濡れ衣まで着せられた窃盗犯が捕まり


俺は、オカンの用意した新品の靴を「なんで俺?」と訝る久木田にプレゼンツした

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