第949話 朝礼にて

「どうしてお父さんは一つしかコスモスを渡さなかったのでしょう?」


最近、よく思い出す設問だ


俺が小4の頃だったと記憶しているが、国語の教科書に「一つの花」という話が載っていた


これから戦争に向かうお父さんのおにぎりを、幼い「ゆみ子」が「一つだけちょうだい」とぐずり


結局、お父さんが汽車の中で食べるはずだったおにぎりを全部食べてしまうのだが


それでもまだ「一つだけ、一つだけ」と泣く「ゆみ子」に、お父さんがコスモスの花を一輪、摘んできて渡し


「一つだけのお花、だいじにするんだよう・・・」そう言って汽車に乗って行ってしまう


・・・10年後、お父さんの顔も憶えていない「ゆみ子」が、庭いっぱいのコスモスに包まれた家からお使いに出かけるシーンで終わる


"どうしてお父さんは一つしかコスモスを渡さなかったのか"


小4にはなかなか難しい設問。


ましてや戦争を知らぬ世代なので、当時のお父さんの気持ちなど察することができない


「一つの花」に限らず、我々は小さな頃から日本人特有の慎み深い心理描写を読み解けるよう、教育を受けてきた


それはいずれ、他人の気持ちを慮(おもんぱか)ることのできる大人になるための訓練であった 


それが今、何処でどうなったのだろうか


他人を立ち上がれなくなるまで傷付けるために、完膚なきまで魂を引き裂くために、国語力を磨いてきたのだろうか


「一つだけのお花、だいじにするんだよう・・・」


お父さんは「ゆみ子」に「一つだけの命、大事にするんだよぅ・・・」


そう伝えたかったのだと、当時の担任から教わった。



「少なくともお前たちには、常に相手を思いやる心を持っていて欲しい。」


「も~とも~と~と~くべ~つな~おんり~わ~ん」



何故いま歌ったのだ、宮里。

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