第938話 思い込み

PartⅠ


お客と蕎麦屋に入り、注文の品を待っているとスマホに着信


市外局番082から始まる番号だ・・・広島か。


登録されていない番号は基本、無視するのだが


スマホからの発信ではなかったのと、まだ食事前だったので電話に出た


「あっ・・・なんだか、長らくご無沙汰しているのに突然電話なんか掛けて、すみませんねぇ」


「えっ?」


声は50~60代と思しき男性だ


「いや、あのね、まだ北谷(ちゃたん)に居られるのかなと思ってヒルトンに電話したら、お辞めになったって言われましてね」


ヒルトン?

誰かと間違えてる?


「だから申し訳ないと思ったんですが、以前教えていただいたこの番号に、直接掛けさせていただきましてね」


「あのぅ、どちらさま・・・」


「憶えてらっしゃらないと思いますけどね。憶えてらっしゃらないでしょTさん?」


うわ俺の名前だ合ってるやん。


「あの・・・」


「わたしね、ほんと良くしてもらってね、お店も色々教えて戴いてね。このたびまた北谷に行くことになったんですよ」


「あっ、そうですか。えーと失礼ですが、どちらさま・・・」


「イケダっていいます。憶えてらっしゃらないでしょうねぇ。久しぶりですし。わたし頭剥げてまして、色黒なんですが」


それ俺じゃない?


「でね、色々教えていただいたお店、あるじゃないですか。それをですね、他の客に教えましたらですね、美味しくなかったらしいんですよ」


めっちゃディスってるやん・・・


「でも一件、店の名前が思い出せなくてですね、なんてお店だったか教えていただこうと思ってお電話した次第です」


「その・・・教えられたお客様っていうのは、どちらに行かれたのですか?」


「ええっとですね~、○○とか■■とか××とか、どこも美味しくなかったらしんですよ」


なんやこいつ。

腹が立ってきた。


確かに俺のおすすめの店ばかりだが・・・全滅だとぅ?!


「あと一件、たしか"みや"から始まるお店だったんですが、どうしても思い出せなくて」


「ああ、宮の心ですか?」


「あっ!・・・そうだったかも知れない」


「いやでも他は美味しくなかったんですよね?そんな、私のことなど信じて戴かなくとも結構ですよ」


「いえいえそこはTさんにもメンツがお有りでしょうから。折角だし行かせていただきますよ」


「メンツとか、そん・・・はぁ?"折角"?」


「いやいやお昼時にすみません、有難うございました。またお電話するかも知れませんが宜しくおねがいします」


電話が切れるといつの間にか目の前に注文の品が置かれていて、お客さんは俺の電話が終わるのを待っていてくれた


「なんかあったの?顔が怒ってるけど」


いや~それが、斯々然々で・・・食べながら説明する


「Tさんはその人、知らないの?」


「全くです。記憶にないんですよ」


「けど私その人知ってますよ?」


「えっ?!イケダさんをですか??」


「いやいやヒルトンのTさん」


「えっ?ヒルトンにTってかた、居られるのですか?」


「北谷リゾートに居てらしたけど、瀬底(リゾート。2020年7月開業)に移ったんじゃなかったかなぁ」


「えっ?じゃあその方から聞いたんでしょうか?いやでも番号は私だし、確かに私のオススメ店でしたし・・・」


真相は闇だが、イケダ氏の掛けてきた番号は着拒にした。


皆様も北谷にお越しの折りには是非!宮の心までお越し下さい!!(結構出没してます)



PartⅡ


魚屋で魚の名前を訊ねたら「はあ?何ですかね?」と言われるようなものだ


シェラトンの宴会係に電話して


「16時から30名ほどの会食を催したいのですが、そちらの1階に大きなラウンジありますよね?そこ使えたりします?」と訊いたところ


「えっ?はあ・・・?」と返された


なにそれ??

そんな返事ある??

おかしくない??


「貴女ね、『はあ・・・』なんて言い草あります?それ接客業としてどうなん?」


「大変失礼いたしました申し訳ございません!私が至らぬばかりにお客様に」


「あっ・・・いや、あの、大丈夫です!御免なさいね!またお願いします!」


慌てて電話を切る


"ヒルトンのTさん"がずっと頭にあって、無意識でヒルトンの宴会係に掛けていた



偉そうに言ったことが、実はこちらの勘違いだった事、たまにありません?


先日広島に立ち寄った際、流川(ながれかわ)という繁華街で、酔っ払った年配サラリーマンが


「うわ!びっくりさすな!がんこ※のオッサン!!」


すしざんまいの社長(の人形)に怒鳴っていた


※「がんこフードサービス」大阪拠点の和食チェーン。ロゴが創業者の似顔絵。

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