第717話 不審者
ボロく真っ暗な雑居ビルの3階に、借りている倉庫(隠れ家)がある
たま〜に世間と隔離して、集中したい時に使うのだ
他の階には、昔スナックだったスペースが看板そのままで残されていたり
扉の前に、ボロボロの回転椅子などが積み上げられていたりする
先日、隠れ家で作業しようと思い立ち、ビルの裏手の路地までやってきた
エレベーターは無い
昼間なのに真っ暗な階段があるのみだ
とは言っても何度も来ているビルなので、特に不気味さは感じない
そのままスタスタと、真っ暗な階段を上がっていく
2階踊り場を右手に回り込み3階へ上ろうとして、階段の2段目にしゃがみ込む人を発見
「うわっ!なんじゃお前!!」
ビビって思わず叫んでしまった
向こうはどうやらサラリーマンだ
手にパンを持ち、階段のステップには牛乳パックが置かれている
「ごめんなさい!」
「なんやお前!不法侵入かっ!!」
別に俺はビルのオーナーでも何でもないのだが、その30代のくたびれたサラリーマンに追い討ちをかける
「違います違います!ここでお昼を食べていただけで!」
「ここはお前の家か!リビングか!お前みたいな奴にもし、御年寄が遭遇して階段から落ちたりしたら、どうするのや!」
「御免なさい御免なさい!」
サラリーマンは鞄とパンと牛乳を抱えると、慌てて階段を降りて行った
全く・・・
ビルから出て行くのを見届け、再び階段を上がろうとして
おや?
黒い、薄っぺらいものをステップに発見
拾い上げるとスマホだ
急いで階段を降り裏路地に出たが、既にサラリーマンの姿は無い
ビルの前で5分ほど待っていたが、戻ってくる気配もない
どうするか・・・
紛失に気付いて戻ってきた時のために、同じ場所に置いておくか
いや、万が一誰かが見つけて、持ち去らんとも限らん
う〜ん
思案しながら再び階段を上ろうとすると
もの凄いベタ足で走ってくる音がしたので、そちらを見る
見事な女の子走りでサラリーマンが戻ってくるところだ
俺は黒いカバーのスマホを頭上で振る
バタバタバタと掛けてきたサラリーマンが、ハァハァ言いながら立ち止まる
「お前のか?」
「み・・・ 見ました?」
「は?何を?」
「中、見ました?」
「見てへんよ」
「ホントに見てないですか?」
「何やお前、拾って貰ってありがとうも無いんか?」
「すみません・・・あの、見ました?」
「見てないっちゅーねん。お前、何か怪しいこと企んどるのか?」
「いえ・・・あの、返して貰えますか?」
「ちょい待てお前、不法侵入しといて返してくれ、か?礼も言えんのか」
「もう返してくださいよ」
いじめるつもりは無かったのだが、焦り方に少々違和感を感じたので
「まて。中見てから返す」と言うと
サラリーマンが「あっ!」と俺に飛び掛かってきた
体を捻りながら軽く突き飛ばす
ますます怪しい奴!
その隙にスマホを開く
そこには、白いシーツに横たわるOL女性の待ち受け
は?
これが見られたくないもの?
「誰よこれ」
サラリーマンと待ち受け女性を交互に見ていたが
「・・・あっ、これ?!」
「もう!やだ!!」
再びサラリーマンが突っ掛かってきたが、今度は避けなかった
バッと両手で俺の持つスマホを奪うと
「もうイヤ〜っ!!」
もの凄い勢いの、女の子走りで去って行った
なんかごめん。
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