第699話 書留

俺・U部長(若手取り纏め)・イシくん(小さな営業マン)・谷やん(脳筋1号)が珍しく揃ったため


普段お世話になっているK専務の会社に御挨拶に伺った


急な訪問だったのでアポも取らずにお邪魔したところ、打合せで御不在とのこと


ちなみにこの会社、沖縄では超有名な総合商社(ゴルフ場・ホテル経営、不動産開発、金融、交通など)の関連子会社で


主にホテル・レジャーの管理業務を生業とされている


「では名刺だけお渡し願えますか?」内線の女性に伝える


ほどなく扉が開いて出てきたのは、女性ではなく若い男性


「折角お越しいただいたのに申し訳ございません」


丁寧にお詫び頂くその男性に「いえいえそんな」と4人分の名刺を事付ける


と、その男性が


「あのぅ折角ですので、上席呼びましょうか?」と仰る


上席?

社長のことだろうか?


「本当ですか?是非お願い致します!」


わかりました今暫くお待ちください、と男性は引っ込む


「タイミング良かったなぁ、専務居てはらへんけど社長居てはるらしいで」


4人で話していると、背後から冴えない感じの背の低い50代の郵便局員が入ってきた


内線電話を取り「書留です受け取りお願いします」そう言って受話器を置く


フロアには我々4人と、その郵便局員が無言で立ち並ぶ


1分程経ち、扉が開いた


「これはわざわざ。いつもお世話になっております」


そう言って出てこられた80代の恰幅の良い老人を見て一瞬、誰だか分からなかったが


「ああっ?!」


我々は仰天


その方は、企業グループの頂点に立つ本家商社の創始者である、会長さん御本人であった


沖縄の業界なら誰でも知っている大御所


音楽業界だと北島三郎のような、雲の上のお方だ


おそらく、ランダムに関連会社を回ってらっしゃったのだろう


我々は緊張のあまり声も出ない


かと言って御挨拶しないわけにはいかないので、震える声で


「こちらこそ、いつもお世話になっておりま・・・」


「あっこれ。受け取り貰えます?」


まさかの郵便局員が会長に書留を渡した(꒪⌓꒪)


「何これ?」


「あっサインでも良いので」


「どこに書くの?」


「ここ」


「あっはいはい。ペン・・・」


すかさず俺のペンを差出す


会長がサインした控えを受け取ると、郵便局員は小走りに去っていった


そこで扉が開き女性事務員が出てきたのだが


目の前に立つ会長、何故かその会長の手にある書留


「あれ?・・・あれっ?郵便屋さん・・・居ませんでしたか・・・」


「あ、これかな?」そう言って会長は書留を女性に渡す


「あっ!す、すみません!申し訳ありません!!」


そう言って逃げるように女性事務員は引っ込んでしまった


改めて我々に向き直られた会長が


「あ、これありがとう。書きやすいね、どこの?」


そう言いながらペンを返してくださった


さすが大物は振舞いが違う・・・


我々4名は只々、感嘆するだけだった

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