第679話 増える脳筋

ウチの若手の高良(たから)くん(23)は普段、バイク通勤している


ある朝、事務所の入るビルの入口でちょうどバッタリ出会った


「お早うございます!」


「お早う。メットにマスク・・・まいにち暑いやろ?」


彼の被っているヘルメットはフルフェイスではなくハーフキャップ型だ


「暑いです!あ、Tさん。俺ちょっと凄いんですよ」


「なにが?」


「俺のデコと外気温との差で、ここに(とメットのツバの下側を指し)結露するんスよ」


「ん?どういうこと?」


「あ、中に入ったらすぐ分かります」


そう言って高良くんは、バイクを駐輪場に停めるとヘルメットを被ったままビルに入る


ビル内はキンキンにクーラーが効いている


エレベーターに向かう通路で高良くんが立ち止まって言う


「ちょっと見ててくださいよ・・・ほら!これですこれ!!」


そう言って高良くんは指先でヘルメットのツバの下側をなぞると


指先に微かな水滴が付いてきた


「ほら!ね!凄くないすか俺のデコ!!」


お前マスクしてるよね

眼鏡、掛けてるよね

お前の息、マスクから抜けて、いま眼鏡曇ってるよね

メットにも同じ現象が起ってるよね


だけど、もういいや。

君の夢は壊さないでおく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る