第610話 非力すぎる父親

大阪へ移動中のJR快速


途中停車した駅から乗ってきた、子供の乗るベビーカーを押す20代の父親が


・・・いや乗ろうとする父親が


ベビーカーを、電車の段差に乗せられず四苦八苦しているので


ちょうどドアの開閉口にいた俺は、右手でベビーカーのフロントをグイッと引き上げてやった


「すみません、すみません、すみません」


恐縮しながら乗り込んだ父親に続いて母親が乗ってくる


俺に一礼したあと父親に「どんだけ非力やねん!恥ずいわ!」と小声で文句を言っている


「昨日腕立てしたからチカラ入らんねんて」


「バランスボール乗ってただけやろ!腕なんも関係ないわ!」


「声大きいねん・・・今言わんでもええやんか・・・」


「もっとちゃんとしてよ!」


「分かった、次は乗せる」


ハードル低いなぁおい


大阪駅に着き、俺は先に降りたが


振り向いて降車ドアを見ていると、父親がベビーカーの前輪を上げて勢い良く降り


・・・かけて、車両とホームの隙間に挟まっとるんかい。


傍にいたお婆さんがフロントをヒョイと持ち上げてくれたので降りることは出来たが


重力の弱い星の出身なのか、ただ鈍臭いのか


降りた父親は、続いて降りた母親から本気のローキックを浴びていた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る