第583話 陰謀

急遽乗った空の便で


3箇所ほど席が空いていたので、右翼後方の真ん中を取った


搭乗時刻がきて、機内に乗り込むと


右手窓側に70代のお婆さんが座られて、両手でスマホを握っている


機内モードに切り替えようとされているのかな?俺はその隣に着座する


機首からはまだ、後部座席への乗客が乗り込んでいる最中だ


俺の左隣には中年女性が座った


と、右手から


"聞き取れませんでした。もう一度お話ください"


「えっ?」


"見えないかも知れませんが、いま微笑んでいるんですよ?"


「ええっ?!」


お婆さんが俺に向いて


「これ、この人が喋ったのぉ??」と、自分の握っていたiPhoneを掲げて聞いてこられた


「あ、今のは多分、喋る機能が誤作動して・・・今の携帯は、喋るのですよ」


「ええっ?でも微笑んでるって言われたよぅ?」


「あ〜、なんか、聞こえた言葉に反応したのでしょうね」


「ええ〜っ喋るのぉ?見えてるのぉ?・・・お兄さんこれ、どうやって電池切るのぉ?」


「あ、じゃあ消しておきましょうか?また着いたら、入れましょうか?」


「そうしてくださるぅ?」


お婆さんは自分の持つiPhoneを、相当、警戒しておられるようだ


嫌なものを差し出すように俺にスマホを預けてきた


iPhone11だ。


子供か孫に、強制的に持たされたのだろうか。


電源を落としてお婆さんに返す


・・・1時間半後、福岡空港に到着した。


「電源入れましょうか」お婆さんに声を掛ける


「すみませんねぇ」


オンにして返すと「◯◯さんが見てるのかしらねぇ・・・」とお婆さんがボソッと仰り


俺に向いて「お兄さんもこんな、誰かに見られてる電話なのぉ?」と訊いてこられたので


「あ、見られてるのじゃなくて、携帯の機能が、そうできるというか・・・見られてはないですよ」


俺も咄嗟に、どう上手く説明してよいものか思い浮かばず、お婆さんは更に意味不明になったようだ


「そうなのねぇ、◯◯さんには聞かれてるのねぇ・・・こんなもの、すぐお返ししましょうねぇ・・・」


ロビーを出て、飯にするかどうか悩んでいると


「おばあちゃ〜ん!」


若い女性の声が響いたのでそちらに振り向くと、先ほどのお婆さんがにこやかに手を振りながら女性の元に歩いていく


そして人差し指を口元に当てながら女性に、あのスマホを渡す


渡された若い女性は、何やらお婆さんから耳打ちされていたが


爆笑するのかと思いきや、険しい顔で周囲を見渡す


お婆さんも同じく周囲を見渡していたが、俺を見つけて指をさす


そして2人は俺のところにやってきた


「すみません、祖母から伺いました。祖母を助けて下さったんですね」


「えっ?いや、そんなそんな」


すると女性はひときわ大きな声で、まるでお婆さんにも聞かせるかのように話しだす


「先ほど私が解除しましたので、これで祖母も安心です。◯◯さんも追ってこれませんから。ほら、おばあちゃんもお礼言って?」


「ありがとうございますぅ」


「は?」


「では、失礼します」


「本当にありがとうねぇ」


「は??」


去り際に一瞬、振り向いた若い女性が小声で


「こうでもしないと!もうごめんなさい!」


そう言って去っていかれた


俺は何に付き合わされたのだ

◯◯さんとはいったい何の組織だ笑

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