第527話 置き土産

ある夏の朝。


出張中のJR神戸線の始発に乗り、扉脇に立っていると


住吉という駅で停車し、男性が2人乗り込んだ後に


・・・ぅぅぅうん、ぴた。


俺のスーツの胸元にカナブンが飛んできて止まった


おいぃ(´д`)


キラキラ緑のカナブンだ

慌てて右手で掴もうとするのだが、引っ付いて離れない


おいぃー( ´д`ll)


カブトムシやクワガタ、カナブン等の甲虫の脚の爪は鋭く、いちど掴まれたらなかなか剥がせない


始発なので、ほとんどの乗客が目を瞑ってウトウトしているのだが


1人だけ、座っている女性が、俺とカナブンの格闘に気付いた様子


とりあえずスーツからは剥がせたのだが、今度は人差し指にしがみ付いて離れない


間もなく次の六甲道という駅に着き、扉が開く


数名乗り込んだ後にさり気なく、腰の辺りでブンブン手を振るのだが


こいつは全く飛ぶ気配がない


バンジージャンプが怖くてポールにしがみ付いてるくらい、凄い力で指にくっついたままだ


扉が閉まる


仕方が無い・・・

毎駅毎駅ブンブンしても意味が無さそうなので、そのままカナブンを握り、右手をズボンのポケットに突っ込む


目の端でチラッと女性を確認すると


笑われていたかなと思いきや、心なしか安堵した様子で俺を見ている


ああ。

俺がヘタに離して、まかり間違って自分の所に飛んでこないかと、心配しておられたのだな?


カナブンはさっきまで「誰が離さいでか!」というパワーで人差し指にしがみついていたが


ポケットに入れたとたん、ガシガシと、グーにした手の中を歩き始める


なんちゅうパワーだ

グーにした手から脱出しようと必死だ


いや逃がさんぞ

降りる予定の三ノ宮まではあと7、8分だ。


ガシガシガシガシ動きまわるカナブンを手から出さぬようコントロールしながら、なんとか三ノ宮に着いた


とりあえず、ホームで飛ばすわけにはいかん


エスカレーターを下り、改札手前まで来たところで、カードを出すのにどうしても右手が必要になる


ポケットから右手を出し、左手で財布を取り出そうと注意がそれた隙に


にゅ、とカナブンがグーから脱出しやがった


そのまま腕を上る

こらこらこら


急いでJRカードを出し、カナブンを歩かせたまま改札を出る


カードを財布に戻し、スーツを登りかけたカナブンを左手で掴もうとして


ぶうぅぅぅぅん・・・


飛び立ちやがった


構内にいる次の誰かに止まることなく、一気に外に飛んで行く


全くアイツ、ちっちゃいくせに凄いパワーやったな、掴むのに必死やったわ・・・右手を開く


あっ!


うんこしとる(ノД`ll)

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