第498話 見えない客

先日、とある店のカウンターで飲んでいた時の話


カウンターを挟み、1番手前の入口近くで女の子とサシで飲んでいる


つい先ほどまでカウンターの1番奥には、ほぼ毎日来られている重鎮のお客が飲んでいらして


まだそれほどゆっくりもされていないのに「今日は先帰るねー」と出ていかれた

  

というのも、団体さんがワッと来店して反対奥のVIPルームに入り


そこにママと他の女の子2人が入って行ってしまったからだ


で、自分が先に飲んでいたからと、気を遣い、俺を残して先に帰られたという訳だ


なので俺は女の子と2人きり、という状況。


粋な方だよね、ホント


まあそんなことで、俺はその彼女とゆっくり談笑していたのだが


「えっ?!」


不意に彼女が、先ほどまで重鎮のお客が座っておられたカウンター奥を見る


「なに?どうしたん?」


「いま、写真撮られなかった? 私ら?!」


俺もカウンター奥を見るが、勿論誰もいない


先ほどのお客のグラスが置かれたまま、放置されているだけだ


「何言うてんの、誰もおらへん・・・」


"カシャ"


「わっ!また撮られた!えっなに?なに?!」


怖くなった彼女はカウンターから出てきて俺の後ろに隠れる


確かに今、あのお客さんが座っていた辺りでシャッター音がした


でも誰も居ない・・・


ちょっと俺も不気味になってきた


と、次の瞬間


カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ!!


連写された((((;゚Д゚)))))))


「うおおお?!」

「きゃ〜っ!!」


我々は思わず仰け反る


と、そこに奥のVIPからママが出てきた


我々2人がカウンターの隅を睨んで体を仰け反らせているのを見て


「何してるの2人共?」


そう言いながらカウンターに入り、ずんずん奥へと向かっていくので


「ママだめ!そこ!何かいる!」彼女が止めたが


「えっ?」と言いながらママは奥に着き、カウンター内の棚をゴソゴソしていたが


「あった〜」スマホを取り出す


「あのね今、向こうで『これ』(と手首を突き出し)の話してて、写真撮ったのにね、肝心のスマホここに置き忘れてたのよぉ〜」


ママがVIPルームから、腕にはめたAppleWatchでシャッターを押していたらしい。

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