第490話 焼きサバ

地方のホテルの3階の部屋に戻ってくると、室内全体に焼きサバの匂いが充満している


なんだこれは?!


これだけの匂いを漂わせようと思ったら一気に10人分ほど部屋でサバ焼かんと、難しいやろ・・・


換気しようと窓に近づき、少ししか開かないガラス部分をガコッと押す


すると階下で・・・というか向かいのビルから、ぞろぞろと人が出てくるのが見える


それもTシャツに短パンという格好の男女が溢れかえっている


ああ~フィットネスクラブとかの客?


そういえばなんか、火災報知器の鳴る音がするけど・・・あっ?!


このサバ臭、それ??


ただ、火の手の上がる気配はないし、煙も上がってない・・・


野次馬根性ではないが、部屋を出て一階ロビーに降りてみた


ちょうど正面にホテル入り口の自動扉があり、そこで数人がたむろして外を見ている


俺は外出する体で、扉に近づいていく


「誤報か?あんな格好で寒いだろうに」


「裏手に居酒屋多いからねぇ、まだわかりませんよ?」


そこに様子伺いに外に出ていたホテルマンが戻ってきた


「お騒がせしました皆様、向かいのビルの火災報知器の誤作動のようですので、ご安心ください」


なぁ~んだ~とそれぞれ口にしながら宿泊客は散っていった(というか何を期待していたのだ?)


ちょうど良かった、何気にホテルマンに聞いてみる


「あの~306号室の者なんですが、さっき部屋に入ったら異臭がこもってましてね。まあでも誤報だったら関係ないのかな?」


「えっ!申し訳ございませんお客様、それはどんな臭いですか?」


「いや異臭っていうか焼きサバの・・・」


「大変申し訳ございません!それはおそらく当ホテルの厨房の匂いかと思います!直ぐに別のお部屋をご用意させて戴いて・・・」


「えっ?厨房って1階じゃないんですか?」


「そうなんですが、たまに風向きで・・・」


「風向きって、窓は閉まってましたよ?」


「いえあの、室内の換気口の関係で・・・」


「そんな事あるんですか笑 まあ、食欲そそられただけなんですけど笑」


「本当に申し訳有りません・・・先日も他の部屋に御宿泊のお客様から『お腹が空くじゃないか!』とお叱りを受けまして」


「焼きサバは一番あかんやつでしょ笑 匂いだけって、そらぁ地獄だわ笑」


「いえあの、その日は焼き鳥が充満しまして・・・」

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