第390話 クロスオーバー

もう3年前の話になるが


関西回りから帰ってきて夕方、那覇空港からタクシーに乗った


丘(陸上)での仕事中は、黒のスーツに、マトモな職業の方は着ないような色目のシャツに派手なネクタイを締めているから


風貌も相まって裏家業に見えてしまう(当の本人としては、その見た目と話した時とのギャップを楽しんでいるのだが)


さて、運転手に行き先を告げ、谷やんに電話をかける


着陸してから電源ONにすると、彼から数件の着信のあることがわかったからだ


『はい、谷です』


「おう俺や。どうした?」


『あっTさん!いや今日、メーター越えのオーマチ(アオチビキ)来たんスけど、エア抜き(浮き袋の空気抜き)上手くいかなくて浮いてしまってるんスよ。どうします?シメときます?』


オーマチは、狙って釣れない高級魚だ

活きが良いほど高値で売れる


「あかん、絶対死なすな。」


『でも、このままだと鮮度落ちますよ?』


「俺が着くまで生かしとくのや。死なすなよ。わかったな。」


『了解っす』


電話を切る


「運転手さん行き先変更や、◯◯港まで行ってや」


・・・ん?


スピード落ちてる?


「あの、お客様、それって物騒な話ですか・・・?」


「は?・・・ちゃうちゃう!魚!笑」


「魚?」


「魚釣れたから生かしとけって電話!なんでスピード落ちてんの?急いで欲しいねんけど」


「あっ、港に行って、私、どうなります?」


「何をさっきから言うとんの?え〜と(助手席の名前を見て)眞栄田さん?ドラマの見過ぎでっせ笑」


「はあ・・・」


「頼むから早よ行ってくれませんかね?」


そんなコントみたいな勘違いするか普通?


少しイラッとした顔になってしまったのか、バックミラー越しに俺をチラ見した運転手の眞栄田さんは、それ以降、無言になる


あ、そうや。


再度、谷やんに電話を掛ける


『はい谷です』


「おう、他に何釣れた?」


『カンパチとアカジン(ミーバイ)は結構います』


「手頃なん2匹ずつ、腹出してスチロールに氷詰めしといてくれ。あと10分くらいや。」


『わかりました』


12分後、港に着く


眞栄田さんに、あの船の横まで行って、と指示する


「眞栄田さん、アイツら構成員に見えます?」


「あっ、いやぁ・・・すみません・・・」


タクシーを船に横付けしてもらい、金を払う


「眞栄田さん、これ。怖がらせたお詫び。」


さっき谷やんにセットしてもらったスチロールを、タクシーの後部トランクを開けて貰い、詰め込む



・・・ここまでの話、今も眞栄田さんの持ちネタだと言う。


たま〜に偶然、乗り合わせる事があって


「あの日以来、Tさんの船の宣伝兼ねて、お客さんに(勘違い話を)披露してるのです。」


そう言ってくれる


実際「タクシーの運転手さんに聞いてお電話したのですが」という釣り客数組に御利用いただいた


世の中どこでどう人間関係が築かれるのか(または壊れていくのか)


筋書きなんて無いですね(´皿`)

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