第389話 頂き物

とあるスナックで働く女性


「ウチのママがもう、ほんとに・・・」とボヤく


店が終わると同じ方向なのでタクシーに相乗りするらしいのだが


地理的に先に降りることになるママが、降りる直前に毎回


「◯◯ちゃん、はいこれ。足らず分払っておいてね」と、大量の小銭を渡してくるらしい


それも、両手でないと受け切れない量の小銭。


車内が暗いので、ママが降りた後、ちまちまと数えている余裕もなく


結局は自分の財布から支払うのだが


ウチに帰り、渡された小銭をザラザラ〜とテーブルにぶちまけると、1円5円の山


よくこれで払えって言ったな!と、それでも一応、山のような小銭を数えてみると


毎回200円にもならないそうだ


「結局わたし、小銭掃除させられてるのよ」彼女はそう憤慨する


さて。


そうやって受け取ったは良いが困ってしまったもの。皆さんも御座いませんか?


ZOTTO♯22 https://kakuyomu.jp/works/16816927861385549272/episodes/16816927861516504491でお話した新神戸のマンションを出た後は数年間、大阪の、築年数の経った古いマンションに住んでいた


いつの頃からかずっと自治会長をやらされていたから、「ありがとうね」の意味もあったのだろうか


俺の部屋は502号室だったが、ある日、廊下で505号室のお婆さんと、ばったり出くわした


「あっ、会長さん、いつもお世話様。・・・あ、時間ある?ちょっと待ってて。」


そう言ってお婆さんは部屋に戻り、程なくして、何やら袋を持って出てくる


「はい、これ。どうぞ。」


「あ、有難う御座います!」


受け取ると、山崎パンだかの半透明の開封済みの袋が丸められていて、中に何か入っている


お婆さんがそのままエレベーターの方に歩いて行ったため、俺は一旦、戴いた袋を部屋に持ち帰る


なんだろう・・・

簡単に止めてあったテープを剥がし、中を見てみると・・・えっ?


パンの耳。


パンの耳の束だ、どう見ても。


なぜにパンの耳・・・なんか俺、生活困っているように見えたのだろうか。 


それからというもの、不定期ではあるが、会えばパンの耳を戴く習慣になった


会わずとも電話が掛かってきて

「あ、会長さん、郵便受けに入れておきましたから」


・・・そう言われて玄関に確認に行くと、パンの耳。


要らないです、とも言えず・・・


そんな、ある日曜日の午後。


ピンポーンとチャイムが鳴り、インターホンのカメラをみると、そこにはお婆さん。


はいはい〜と入り口に赴き、扉を開ける


「はい、会長さん。これぞうぞ」


お?いつものパンの耳とは違う・・・長めの袋に・・・ん?やさい?ですか?


「え、これは・・・」


「ふき」


それだけ言ってお婆さんは、じゃあ、と帰っていった


ふきー。


ふきだってー。


どうすればいいのー(゜∀゜)


27才、調理経験なんてまるでない若者に、いきなりの「ふき」


いつも行くスナックのママに電話してみた


「ふき?わかった持っといで、炊いてあげるわ」


なんとかなったー


ところがそれ以降、とんと「パンの耳配給」が途絶えてしまった


お体の具合でも悪いのかな?

最近あまり、お見かけしないけど・・・


そんなことを思いはじめた、ある日。


久々に、お婆さんと廊下でバッタリと会った


「まあ〜会長さんお久しぶり」


「ほんと、お久しぶりですねぇ」


「・・・あ、会長さん時間ある?ちょっと待ってて」


そう言ってお婆さんは部屋に戻って行く


あ、これはもしや久しぶりにパンの耳配給?


数分後。


角ばったプラスチックのケースを数十個抱えてお婆さんが出てきた


「あのね、これお爺さんが聴いてたの」


そう言って差し出されたものは20個ほどのカセットテープ


カセットテープすか今時?!

なに?歌ですか?


1番上のカセットのタイトルを見てみた


ふふ、これを俺に、くださると。

聴けよと。


「三橋美智也セレクション 名月赤城山」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る