第366話 御老人の攻防

JR神戸線での話。


この話の情景を、如何に皆様に的確にお伝えすることができるか。


身振り手振りを加えながら伝えられないため、なかなか難しいところですが


もし「なんのこっちゃ?」となりましたら私の表現力不足です、ごめんなさい。


※ここで簡単にコントローラーの説明をします


 〇 しゅた。 → 手を挙げる。

 × うぃーん。 → 方向を変える。立ち上がる。

 △ すっ。  → すすむ。

 □ しゅぅぅ → 座る



大阪から三宮(神戸)に向かう普通電車が中間の駅で停車し、3人の老人が立て続けに乗ってこられたのだが


この老人が3人とも、加齢とともにほどよく動きがゆっくりになってこられた方々、と表現すれば、お判りになるだろうか。


3人が3人とも しゅた。しゅた。とスローに手を挙げながら


はい~ちょいと前を通りますよぉ開けてくださいよぉ〜といった感じで動き回られるのだが


お互いがお互いの進路を妨げるというか、障害物に当たると進路を変えるおもちゃのように


しゅた。うぃーん。しゅた。うぃーん。すっ。すっ。


3人が3人とも、それを繰り返す


そのうちそれぞれ空いている席を見つけ(といってもまあまあ空いている)


すっ。すっ。すっ。しゅぅぅ・・・とお座りになったのだが


何故か、うち2人が、わざわざ隣同士の席に、若干重なった状態でお座りになった


後から座ってきた老人Bに、右足の上に重なり気味に乗ってこられた老人Aは


乗っかられていることが、分かっているのかいないのか、特に意に介されていない


そのまま電車は2駅ほど進む。


「間もなく~〇〇~〇〇~」


車内アナウンスが流れ、若干上に乗っかられていた老人Aが、うぃぃ・・・と腰を上げようとして


上に重なっていた老人Bから右足が抜けたはいいが


立ち上がりかけて "ずいっ" と元の座席に引き戻される


"・・・ん?立ち上がる勢いが付かなかったのかな?"


再度老人はうぃぃ・・・と腰を上げようとするのだが、また "ずいっ" と、座席に引き戻される


さすがに老人A、おかしいなと気付いたのだろう、自分の周囲を見渡す


再度腰を上げようとして、自分のポロシャツの裾が、重なり気味だった老人Bの尻の下に敷かれていることを発見


"ああ~、だからか" 俺も初めて気付く


立ち上がりたい老人Aは、ポロシャツに乗っている老人Bに向き しゅた。と手を挙げる


言葉にすれば「すみませんが退いとくれ」だろう


ところが しゅた。とされた老人Bは、一拍置いてにこやかに うん。うん。うん。とうなづくだけ


言葉にすれば「これはこれは、お気をつけて」だろうか


「いや、そうでなくてじゃな」という感じで、立ち上がりたい老人Aが再度、しゅた。と手を挙げる


老人Bは うん。うん。うん。を繰り返すだけ


「電車がホームに入ります、ご注意ください」今度は車外からアナウンスが聞こえてきた


このままでは到着してしまうぞ?

どうする老人A?!


埒が明かないと気付いた老人A。


身体を右に捻り、尻にひかれたポロシャツを両手で掴むと


「ええい、ええい、ええい!」声を上げ、裾を引っ張り出そうとする


ようやく、敷いていた方の老人Bが気付く


しゅた。(申し訳ない)と手を挙げながら左腰を浮かせると


「ええい!」と引っ張っていた老人Aは、とっととと・・・前につんのめる


何とか体勢を立て直し、誰にともなく しゅた。と手を挙げた老人Aは


すっ。すっ。すっ・・・と電車を降りていった


この一連の攻防に気付いていたのは、立っていた俺と、老人の正面に座っていた女子高生、おばちゃんくらいだったが


皆、御老人のことなので笑うに笑えず。


ようやくこの場を借りてスッキリできました・・・

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