第362話 仕切り板

何度も何度も登場いただいた、例の薬局のおばちゃん


・・・と書き始めると「それ誰?」とお判りにならない方もおられるでしょう


近所の薬局のおばちゃんなのだが、簡単に言えば頓珍漢なのだ


禿げた俺に「これ良いですよ」と女性用ヘアコンディショナーの試供品をくれたり


焼けた肌がトレードマークの俺に「これ効きますよ」とSK‐Ⅱの試供品をくれたり


そんな方だ


レジの女性は数名いるのに、何故か毎回俺は、そのおばちゃんに当たるのだ


これは、世間的に飛沫防止の仕切り板が当たり前となった頃の話


薬局に寄った


案の定そのおばちゃんのレジに当たる


この薬局では客と店員の間に透明プラスチックの仕切りがあって、商品受け渡しのために、下から30センチほど仕切りが浮いている


そもそも今回の話・・・


コロナ対策として至る業態で仕切り板が導入されて久しいので


なんで今更こんなことが起こるだろうか、と不思議でならない。


精算で並んでいた俺の番がきて、商品カゴを仕切り板の隙間からおばちゃん側に押しやる


おばちゃんは、カゴから商品を取り出しながら「ピッ、ピッ」と前を向いてバーコードを読み込んでいるのだが


商品を取り出すときは、下にうつむき加減になる


初めは全く気付かなかったのだが


うつむく時に、おばちゃんの"つむじ"から


鬼太郎の妖気レーダーのように、髪の束が俺側に向いてピーンと立っていることに気が付いた


その状態から顔をあげ、商品をピッとやるときには、髪の束が前を向く(俺側に畳まれる、というか)


うつむいて商品を取りだすとピーンと立ち、顔をあげてピッとやるときには前を向く


おばちゃん・・・


仕切り板の静電気に翻弄されまくりやないか。


両隣のレジを見てみるが、両隣の女性店員の髪は普通だ


何故かおばちゃんだけ、頭のてっぺんが東京タワーのお土産チョコみたいになっている


本人は全く気付いていないようで、俺の去り際に「有難うございました」と顔を左に向けたおばちゃんの髪が


右に引っ張られて花輪くんみたいになっていた

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