第332話 朝礼にて
人前で話することに慣れさせるため、毎週月曜の朝礼時には、週替わりで5分程度のトピックスを語らせている
イシくんや谷やんや宮里くんは、普段から俺の傍にいる事が多いため、
例えば時間が空いて、お客様に10分ほど待機してもらわねばならないって時に、トークで場繋ぎができるのだが
他の連中はまだまだ、その域に達していない
なので朝礼時のトークは、そういった場慣れも兼ねている
そんな中、ウチの唯一の頭脳派・金城くん(28)は、大の話し下手だ
彼を指名すると、皆の前で見世物にして、まるでイジメているように見えてしまうので
暗黙の了解というか、次の朝礼で話す者を指名する際、極力金城くんは避けられてきた
しかし昨年末、彼は何を思ったのか
「新年4日(初出火曜)の朝礼、僕が話します」と、事務のRちゃんに自ら手を挙げたそうだ
4日朝、俺はまだ仲間と沖にいたので出れなかったが
AM8時半から、新年一発目の朝礼が始まった
神棚に拝礼したのち、金城くんが神棚の下に歩み出る
自分で言いだした彼ではあるが、皆に振り向いた時には既に、ガチガチになって手がブルブル震えていたそうだ
聞く側は14人。
全員が"こいつ、大丈夫だろうか・・・"と金城くん以上に緊張している
そして突然、金城くんは口を開いた
「メロスは激怒した」
・・・・・・?
・・・・・・??
「暴君ディオニスを除かねばならぬと、き、決めたのだ」
・・・・・・?
走れメロス??
そこから金城君は詰まりながら詰まりながら、途中で話が飛んで沈黙もありながら
走れメロスを語り続けた
皆は彼の意図が分からず・・・
少々不気味に感じながら、黙って聞き続ける
話の後半から、緊張しすぎて頭が真っ白になったらしい金城くんが
「あなたの身代わりになったディオニスの、で、弟子でございます。残念ですがもう、処刑に間に合いません」
暴君ディオニスと、身代わりになった友・セリヌンティウスを逆にしてしまった
本人は最期まで登場人物が逆のまま話し続けたので
「これは何か・・・"間違いに気付けるかどうかの心理的実験"なのだろうか?」
とさえ、皆は疑い始めたそうだ
30分後。
「ありがとう友よ。万歳万歳、王様万歳。」
そう言い終えると金城くんは、そそくさと自分の机の前に戻っていく
え?
終わり?
終わったのかな?
皆が顔を見合わせるなか、金城くんは自分の机の前で無言のまま、俯いて立っている
ここでU部長が
「金城くん有難うございました。走れメロス、よね。え~・・・友情とは何か。今一度、各々の心に、問うてみましょう。」
そう締めたので、40分間に渡った朝礼は、ようやく散会したそうだ。
結局、金城くんが何故「走れメロス」を語ったのか、真意は今も分からぬままだ
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