第272話 ボタン
神戸の震災が発生してから1ヶ月半
我々は三ノ宮の仕事場で仮眠を取り、復旧作業(建設業)に当たっていた
被害の実態を把握するにつれ、作業員の手が全く足りないことが判明したため
追加で県外から、大勢の職人さんに来て戴いた
もちろん我々だけでなく
当時の神戸には膨大な数の、県外からの助っ人が来てくれていた為
喫緊の課題は「寝泊まりしていただく場所の確保」だった
大手企業は真っ先に、ビジネスホテル・旅館などのうち
被害を受けず稼働していた宿泊施設を押さえに掛かった
我々は遅きに失し、なんとか一棟借り出来たのは
再度山(ふたたびさん)という山の中腹にあるラブホテルだった
震災から45日目。
社有車のバン数台に分かれ、職人を連れてホテルに向かう
25名を2人一組で部屋割りし
俺は、その日初めて面識を持った職人さんと一緒に宿泊することとなった
先の見えない復旧作業を45日も休みなく続けていると
一日が終わり、さあ眠れる!と思うと、張っていた気が瞬時に砕けてグッタリとなり
横になると、5秒で眠りに落ちるような生活を続けていた
当時、俺は26で、同じ部屋割りとなった職人さんは55くらいの京都の方だった
「すみません、こんなところで」
「・・・ん?あそこで寝るの?」
職人さんが指を差した先には、2人用の円形ベッド
「そうなんすよ〜あんなので済みません・・・」
「ええよええよ、寝れたらどこでも」
交代でシャワーを浴び、ベッドに横たわる
棚のデジタル時計は22:50となっている
職人さんが右、俺が左
「明日も早いし、寝ますかぁ」
電気を消そうとした職人さんが、頭側にあるボタンに気付き
「これ何や?」スイッチONにする
グゥィ〜〜ン
突然ベッドが時計回りに動きだした
お互い、仰向けになって天井を向いているのだが
天井には、ベッドに合わせた円形の鏡が嵌めこまれている
「これは間抜けやなぁ〜」
そう、職人さんが笑うのを聞いた記憶はあるが、疲れですぐに意識が飛ぶ・・・
さて
どれくらい経ったのか
四方から差し込む光を感じ、目を開けると
クルクルまわる朝日を浴びた、
クルクル回ったまま寝落ちした職人さんと俺が
天井に映っていた
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