第189話 Happy Birthday

過日、大阪は天満宮の商店街にある、兄貴分のマスターのバーに赴いた


時間は19時半、まだ混み出すには少々早い


俺がカウンター奥で1人飲んでいると、20時前に女性客2名が来店、カウンターの反対側の隅に座る


20時15分頃、ダン!と入口のドアが開けられる


「ここタバコおっけーすか!」

またでっかい声でサラリーマンが入ってきた


女性2人がビクッとしたぐらいだ


「大丈夫ですよ」マスターが答えると、サラリーマンは店の外に向かい


「いけるって!」と言い、入ってくる


続けて5名、量産型サラリーマンが入ってきた


年の頃は40代後半といったところか。


量産型と表現したのは、皆グレーのズボンに白いカッターシャツ姿だったからだ


「おっしゃれな店やん、良かったわ」などと言い合いながらテーブル席に座る


それからは、ワイワイ騒ぎながら6名は飲んでいたが、30分くらい経ったころかな、


初めに「タバコおっけーすか!」と入ってきた男性がカウンターにやってきて


「すみません、ホールケーキとかあります?」とマスターに言う


「あーウチそういうのは作ってないんすよ」


「そうですか・・・この近くに、お祝いのケーキとか売ってるとこないですかね?」


「あー、えーと、ここ出て右手の先に◯代ってスーパーあるんで、そこにやったらあるのと違いますか」


「あ、スーパー・・・あの、店持ち込んでも大丈夫っすか?」


「ああそれは構いませんよ。取り分けの皿とかもお出ししますから」


「ホンマですか!じゃあちょっと行ってきますわ」


サラリーマンは店を出ていった


15分ほど後、サラリーマンが戻ってくる


「ありましたので、すみませんが皿とかお願いしていいですか」とマスターのところにやってくる


「わかりました」


マスターは人数分の皿やフォーク、ケーキナイフなどを揃えてサラリーマンのテーブルに運んで行く


運び終えたマスターは、LPの棚をゴソゴソしていたが、スティーヴィーワンダーの「ホッター・ザン・ジュライ」を出してきた


"あ〜なるほどね"


このアルバムには、かの有名な「ハッピー・バースディ」が収録されている


よくバラエティなどで出演者の誕生日を祝う際、必ず掛かる曲だ


ちなみにこの曲、御存知の方も多いだろうが、あのキング牧師(マーティンルーサーキングJr.)の誕生日を祝日とするために書かれた曲だ


盤に落とされたレコードが回る

そして曲が始まった


世間ではサビの部分しか知らない方も多いので、カウンター端の女性2人も初めはピンとこなかったようだが


ハッピーバースディ♪

ハッピーバースディートゥーユー♬


と流れた瞬間、ああ!と意味を理解したようだ


そしてサラリーマンたちの方を見てみる


女性客も居るし、オッサン同士で騒ぐのも気が引けるのか、恥ずかしそうにしている


さて、まあそんなこんなで俺もそろそろ次の店に行く時間になった


マスターに精算をお願いする


「じゃ、また!」店を出て、新地方面に歩き出す


10分ほど歩いたころ、LINEが来る

マスターからだ


「Tちゃん、送別会やった・・・」

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