第188話 みゆき
前後で会話しながら歩いていて、ふと「・・・って思わん?」と振り返った時に
相手が、今の今まで後ろを歩いていた連れではなく全く知らんオッサンだったとか。
そういうこと皆さん、ありませんか?
以前映画を観に行った時に、連れの女性Aが左、俺が右に座り
俺の右には知らない女性Bがいて、その右にお連れであろう男性Cが座っていた
スクリーン
↑
女A 俺 女B 男C
上映中「うわっ?!」と驚いたシーンで、突然女Bが俺にしがみついてきた
「えっ?!」2連続びっくり
女Bは直ぐに俺から手を離したので、女Aにも男Cにも気付かれなかったが
貴女の相手は右の人よね?
選りにも選ってそんな間違い、します?
そういった思い込みとか、人間違いとか
まだ間違い対象が“人”だからいいようなものの・・・
客に連れられて入った地方のスナック
カウンター左手に案内され、座る
右端には、だいぶ前から飲んでいたのか泥酔のサラリーマンが1人、座っている・・・いや、寝ている
半寝半起の40代のその男、見れば既に、いろんなイタズラを施されている
鼻の穴にピーナツ
スーツの胸ポケットにスルメ
頭に生花
首にレイ
顔に落書き
店の女性連中の仕業らしい
我々の背後のボックスにも3名、先客がいて
その彼らの会話によると「あの人いつも"ああ"だからなぁ」との事
素敵?に飾り付けられたその男、目を瞑って寝ているが、たまにフッと顔を上げ
「みゆきィ〜、なぁ〜みゆきよぉ〜」
手で、おいでおいでしながら、カウンターの女性に声を掛ける
みゆきィ〜と呼ばれた女性は、後にママだと紹介を受ける
なかなか色っぽい30代の女性だ
「なあ〜みゆきィ〜」
たまに顔を上げては呼んでくるその男に、ママは
「待っててね〜リョウちゃん」
「いるわよ〜リョウちゃん」
「もうすぐよ〜リョウちゃん」
毎回そういうくだりがある
お決まりの流れのようだ
俺を連れてきた客が「もうそろそろママの代わりが来るぜ」と言う
代わり?
そうこうしていると、ママが隣の女性スタッフに耳打ちする
女性はカウンター奥に入り、何かを抱えて出てきた
体高60cmほどの、着飾ったミニーちゃんのぬいぐるみだ
それを、男の目の前に座らせる
「リョウちゃん、お待たせ♡」ママが声を掛ける
「・・・ん?」
半目のまま顔を上げたその男
「あぁ〜!みゆきィ〜来たか〜」
愛おしそうにミニーちゃんを抱き上げる
「帰ろうな〜、一緒に帰ろうなぁ〜」
ぬいぐるみをギューッと抱きしめ、頭を撫でる
そしてそのまま席から降り、右手にミニーちゃん・左手に鞄を下げ
会計を済ませたようには見えなかったが、ママに扉を開けてもらいながら店を出て行った
「えっ?どういう・・・」
訳のわからない俺に、カウンターの女性が説明をしてくれた
リョウちゃんというその客、シラフだとめちゃくちゃ大人しく人見知りなのだが
酔ってくるとイジられたい病が出てくるらしい
さんざん女性陣に遊ばれては気を良くし、更に飲み進めると大好きなママに絡みはじめる(抱きついてくる)
なので度を越して飲ませちゃいけない、と日頃から気をつけていたそうだが
ある日、みゆきィ〜みゆきィ〜と叫びながらトイレに入ったリョウちゃんが
トイレの棚に座らせていたミニーちゃんを抱えて出てきた
で、そのまま席に着き、急に大人しくなってしまったそうだ
それからというもの
泥酔してママを呼び始める→ミニーちゃんを渡す→抱き抱えたまま帰っていく
そんな構図が出来上がったそうだ
「支払いは?」
「次、来られたときに先に前回分、お支払いされます」
「ミニーちゃんは?」
「次回、持ってこられます」
「えっ?・・・シラフで、抱えて持ってくるの?」
「はい、照れながら」
「ちょっと待って、本人はぬいぐるみを何だと思ってるの?」
「みゆきママです」
「いやいや、毎回これ繰り返してて、シラフになったら気付くだろうに?」
「はい、なので毎回、来られたら『またやっちゃった』と仰ってます」
意味わからん・・・
「じゃあさ、毎回返すわけでしょ、ミニーちゃん。で、その日また持って帰るの?」
「はい笑」
「ええ〜っ?変わった人やなぁ・・・」
そこにリョウちゃんを見送った、みゆきママが帰ってきた
カウンターに入り、俺の前に来て言う
「お客様びっくりしたでしょ?」
「いや〜・・・あの人さぁ、ミニーちゃんをママだと思ってお持ち帰りしてるのなら、見送ったママは誰だと思ってるの?」
「あ、両方私だそうです」
「ちょっと待って。ミニーちゃんをママだと思って持ち帰るってことは・・・ぬいぐるみ相手に変なことして・・・」
「あー笑、大丈夫とは思うのですけど、一応」
と言いかけてカウンターの奥に入り、もう2体の、若干服装が違うミニーちゃんを抱えて戻ってきた
「えーっ!!」
「実は戻ってきたらクリーニングに出して、その日持って帰られるのは、また違う子なんです。3体でローテ回してます」
「マジで?!そんなん、クリーニング代も請求せな」
「乗させて戴いてます」
「はぁ〜面倒くさぁ〜!」
"まあでも、そこはリョウちゃんもウケ狙いでやっとるわね・・・"
そう考えていると、背後のボックスから客が会話に入ってきた
「俺一度、リョウちゃんの少し後に店出たときに、この先の◯◯のバス停でリョウちゃんがぬいぐるみ持って立ってるの、見付けたのよ」
「えっ、初めて聞く〜それ〜」ママが反応する
「で、ぬいぐるみ大事そうに抱えてる後ろを、そ〜っと通り過ぎてみたんだけどさ」
「うんうん」
「みゆき〜みゆきぃ〜ってぬいぐるみ見詰めてたから、あーこれマジだなって思った」
「ええーっ!やめて〜!!」
いずれ事件にならんことを祈ります
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