第138話 噂
19時。
馴染みのバーに入ると、カウンター奥に、こちらに向いて座っている30代の女性
その手前には、女性に向いて、こちらには背を向けている50代の男性
なにやら男性が一方的にまくし立てているようだ
「あれ、何?」
椅子を引きながらマスターに尋ねる
「18時半に来られたんですけどね。ずっとあんな感じです」
「あれは・・・何か助け舟を出した方が良いのかな?」
「結構、大声も出されてましたから。他のお客様が居られたら一言いうつもりでしたが・・・Tさん来られましたし」
「俺が言ってこようか?」
過去に何度かこのバーで、目に余る客の仲裁をしたことがある
「Tさん上手だから・・・良いですか?お願いしても。次、大声上がっ・・・」
「俺かぁ?!」
マスターが言ってる矢先に男性が女性に向かって声を上げ、両の手を「Why?!」状態に拡げたため
これは万が一、女性に手を上げてはいけないと思い
引きかけた椅子を戻し、2人の方に歩み寄る
終始黙って弱々しそうな女性が、近付いてくる俺に気付く
その目線に釣られて男性もこちらに振り向く
あ~いかにもDV起こしそうな顔の男性だ
俺はニヤリと笑いながら2人の間に立ち、男性に向きながら声を掛ける
「どうかしまし・・・」
ばちん!!
痛った!!
思い切り引っ叩かれた。女性に。
「なに??誰あなた?!もう出よ!!」
そう言って女性は男性の腕を掴み椅子から降ろそうとする
「どいてよ!!」
今までのオドオドした感じは何だったのだ・・・勢いに押されて俺は下がる
「ああ大丈夫ですか?ごめんなさい何か・・・」
苦笑いで男性が、俺を気遣う
「いいから!!」
椅子を降りた女性がそう言って男性を出口に引っ張ろうとするので
「待って待って!」
男性は慌てて財布から1万円を出すとカウンターに置き、引っ張られるがまま店を出ていった
「Tさん大丈夫ですか・・・?!」
マスターに声をかけられたが、何がなんだか分からんまま俺は呆然と立ち尽くす
そこに丁度、馴染みの女性2名が入ってきた
「マスターこんばんわ~・・・あれ?Tさんどうしたの突っ立って。」
「いま、Tさんが引っ叩かれて・・・」
この話は後に
俺が付き合っていた女性と別れ話になり、ビンタを喰らって立ち尽くしていたという笑い話に昇華され
「ちょうどこの場所でTさん引っ叩かれて、ほっぺた押さえて半泣きになってましたね・・・」
マスターもそんな調子なものだから
●女性に飲んでいたグラスのワインをぶっ掛けられ、ツマミのピーナッツを鼻に詰められた
●女性が女子プロレスラーで、掴んだ手を離さないTにバックドロップを仕掛けてTは失神した
●その遺恨を晴らすためTはリングに上がったがコリエンド式デスティーノを喰らって返り討ちに合った
今ではもう、尾ひれ背びれがついて、ほぼ原型を留めていない
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