第115話 ねこ

6月半ばの話


船のブルワーク(前方の手摺り部分)に立ってお客と釣具の受渡しをしていると


突然カタブイ(スコール)が降ってきた


背後に下りようとした時に足が滑り、そのまま背後に落ち


背中の左側をしこたまデッキに打ち付けた


上半身に骨折は無かったが半身打撲


おまけに右足の薬指と小指を剥離骨折するという、憂き目にあった


打撲があまりにも痛く


接骨院でもらった湿布を貼っても、汗ですぐ剥がれてしまうため


薬局でエアーサロンパスを数本買い込んできて、それを背中半身に大量に振り、過ごしていた


さて。


ウチを出て、海岸沿いからサトウキビ畑を10分ほど抜けたところに行きつけの居酒屋がある


打撲・剥離骨折の憂き目に遭ってからも、若干かかと歩きになりながら通っていた


転落から3日目の19時頃


ゆっくり店に向かって歩いていると、背後に気配を感じて振り向く


するとそこには猫


なんだ猫か・・・再度歩き出す


数歩、歩いたところで何気に背後を振り向く


その猫がまだ付いてきている


ん?何の用かな?


俺は猫派ではないし、なぜ付いてこられているのか分からない


再度前を向き、店に向かい歩きだすのだが


たまに振り返ると、3mほど背後をずっと付いてくる


たかだか猫1匹だが、意味不明のまま背後から付いてこられるのも不気味だ


スキをみて飛びかかるつもりかな・・・?


結局その猫は店の近くまで付いてきたが、踵を返し、元来た道を帰っていった


何だったの?


店に入り、今しがた猫に追われていた話をしながら飲んでいるうちに、そのほかの話題に移って忘れてしまった


翌日は18時過ぎに、夕食を兼ねてまた居酒屋に向かった


向かいながら、あぁ昨日は猫に付いてこられたなぁと思い出す


沖縄は猫天国


街中を外れると、そこら中に猫がいる


寝ているところに至近距離まで近づいても、道を譲ろうとしないくらい我がもの顔だ


なのでまあ、物好きな猫が付いてきても、そう不思議ではないか・・・


そんなことを考えながら、ゆっくり、かかと歩きで店に向かう


道の右にも左にも、至るところに猫がいる


3分ほど歩いたところで何気に背後を振り返る


あれ?2匹の猫が。


昨日とは違う猫だが・・・まさか付いてきてはいまいな?


少し背後を向きつつ歩いてみる


付いてくる~笑


何でよ?!


前に向き、どこまで付いてくるのか、数歩すすむ毎に振り返ってみる


見事に、背後3mを追随してくる


「ちょっと!何か用事でもあるの?!」


その2匹に声を掛けるが、無表情のまま


何でよ笑


結局その日も、途中で1匹は離脱したようだが、もう1匹は店近くまで付いてきた


その居酒屋は若い御夫婦でされているのだが、奥さんに、また今日も猫に付いてこられたと話した


「えーっ、ちょっと不思議ですね」


「そうなんよ・・・気づいたのは昨日からだけど、もっと前から付いてこられてたのかな?」


「なんか興味深いですね・・・これはもう、明日もお越し下さらないと笑」


そんな話をしながら1時間ほどお邪魔し、20時には帰宅の途に着く


ちなみに帰り道は付いてこないようだ


翌日。猫観察?の3日目


この日は少し遅くなり、部屋を出たのが20時過ぎ


暗くなったら付いてこないかなぁと思いながらも、少し付いてきてほしいという期待もあった


もし3日連続で付いてくれば、これは偶然でなく何らかの法則というか要因が存在することになる


いつものように、まずは海岸沿いの通りを歩く


街灯に照らされた歩道には、猫の姿はない


あーやっぱり、もう少し明るい時間の方が良かったのかなぁ?


少々、残念に思いながら歩を進め、そのうち道を逸れ、サトウキビ畑に入る


部屋を出てから半分くらいまでは、背後を振り返りつつ歩いてきたのだが


流石に今日は付いてこなかったか・・・


そう思いながら左右に畑を見ながら歩いて・・・ふいにサッと背後を見る・・・あっ!


1匹いたー(^^)/


いやでも、たまたまかも知れん


3秒歩いて振り返る、を繰り返す


付いてくるよ~(^^♪


けど本当に何でなの・・・?


「なんで?」と、その白黒のブチ猫に訊ねるが勿論、無言


無表情のまま鳴きもしない、首を傾げもしない


そしてまた店の前まで付いてきたその猫は、プイッと何処かに行ってしまった


「あっTさん、どうでした?」


店内に入るとすぐに奥さんに聞かれたので、この10分間の始終を話す


「あの、ちょっと思ったのですが」と奥さん


「Tさん、数日前に船のへりから落ちたんですよね」


「そうそう半身強打!」


「湿布?の匂いがするのですけど」


・・・あ。


湿布は汗で剥がれるから


買い込んだエアーサロンパスを、これでもか!と大量に振っている(^_^;)


「ごめーん、やっぱり匂うよね?」


「いえ、それは全く構わないのですが、その匂いのせいじゃないですか?」


え?猫ってマタタビじゃないの?


それから数日間・・・


店に行かない日もあったが、基本、猫は付いてきた


そして、6月末近くになってようやく痛みもマシになりエアーサロンパスを振るのをやめたところ


なんと、猫が付いてこなくなった!!


ホンマかいな。


猫を数匹飼っている女性にLINEで聞いてみた


「猫ってサロンパスとか湿布の匂い漂わせてたら寄ってくることある?」


「うちの猫はカビキラーやワイドハイターの臭いが好きみたいで、背中を床につけてスリスリしてるよ、だから湿布とかも好きかも」


そういうことか~

謎、解けた気がする


俺はまた、自分の前世が猫の大王なのかと思ったよ


ところがこれで話は終わらない


6月28日という日付をハッキリ覚えている


その日はクソ暑い中、車を使えずあちこち徒歩で出向いていた


汗はダラダラ、不快指数100%超え・・・


もう耐えられん!とコンビニに入り、全身汗拭きシートを購入


その横に「瞬間冷却ウォーターミスト、クールシトラスの香り」というスプレーが置いてある


あ、これも試してみよう


汗拭きシートとともに購入


コンビニを出て駐車場隅の日陰で、まずはシャツの胸元を開き、汗拭きシートで拭く


左右の二の腕も拭く


最後に顔を拭き、そのあと「クールシトラス」なる香りのミストを振ってみた


おっ?


風を受けると結構スースーするぞ!


これは良いかも!


更に、剥き出しの肌という肌にミストを振りまくる


おおお・・・

かなりの爽快感


よし!と、再び炎天下の歩道にでる


しかし数分歩いているうちに、自分の匂いにうんざりしてきた


クールシトラスね・・・


クールシトラスってネーミングに釣られたが・・・


もう俺の匂い、全身「みかん」やん・・・


調子に乗って振りすぎたのもある


しかしこんな全身まるっとみかん臭の奴、いる?


だんだん気が滅入ってきた


こうなるともう、この匂いをすぐにでも落としたい・・・


一旦部屋に戻り、シャワーを浴びてまた出直すことに決めた


てかこのあと、昨日飲んで置いてきた車を事務所に取りに行こう・・・


タクシーに乗り、部屋近くのスーパーまで戻ってくる


少々買い物を済ませ、サトウキビ畑を横目に見ながら、マンションまでの道を歩いていた


と、目の前の木陰で寝そべる5匹の猫を発見


俺が近づくと皆、サッと顔を上げる


ん?

珍しく機敏な猫どもだな?


普段は悠々自適、のんびり~の筈では?


距離は更に近くなる


猫どもは一斉に立ち上がり、俺を凝視している


何だ?

どうしたよ?


突然1匹の猫が「シャーッ!」と俺を威嚇


残りの4匹も後ずさりしながら、それぞれに


「ウェーゥ!!」

「ニョオーッ!!」


俺を威嚇する


何でよ?!


不安になり、少し歩みを緩める


そして猫と俺の距離が1.5mくらにいなったとき、突然


「シャシャシャーッ!!」


1番手前のキジトラが、俺の足目掛けて突っかかってきた


ちょっと!ちょっとちょっと!!


慌てて走り抜ける


えええ・・・(~_~;)


後ろを見ながら足早に猫どもから遠ざかる・・・


まだシャーシャー言うとる(;´д`)


部屋に戻り、早速ググってみた



「猫は柑橘系の匂いが大嫌い」



漫画みたいな10日間だった

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