第17話 俺は知りましぇん

「Tさん、眠れなくて」


ベタだが、なんて悩ましい言葉。


夜中2時前、それほど親密なわけでもないラウンジのママから


ただそれだけLINEが届いたのだが、俺は朝まで気付かなかった


朝7時にようやく気付き


「どうしたん?何かあったん?」返信する


昼過ぎに返事が来た


「(コロナで)仕事出来なくて夜が憂鬱になっちゃって・・・思わずLINEしました」


そうだろうな、もう皆、そうだ。


「分かる。何とかもう少し、耐えてみようや」と返しておいた


その日、その店でよく会うお客のAさんから珍しくLINEがきた


「Tちゃん、なんかさぁ、◯◯のママが元気無くてさぁ」


「何かあったんですか?」


「うん、俺にこっそりLINEくれて『眠れない』なんて言うんだよ」


あ〜これは四方に送ってるなぁ


「でなぁ、Tちゃん、ちょっと聞きたいんだよ」


「何ですか?」


「俺とママ、似合ってるか?」


「へ?」


「誰にも言うなよ、俺、ママの家、知ってんのよ」


まあ俺も知ってるが・・・


「俺、助けてやろうかなぁ思って。抜け駆けするの気が引けるから、こうやってLINEしたの」


おっさん・・・そんなベタな人やったんかい笑


「いやもう、どうぞどうぞ!」


「そう?ちょっと見て見ないフリしといてな?」


何をどうする気なのか、その後どのような事になったのか分からないが


1週間ほど経ったある日、ママからLINEがきた


「あのね?最近Aさんがやたら優しいのよ。どこかおカラダ悪くしとっちゃってんじゃろか?何か聞いてる?」


「それは単純に、ママを心配してるからやないの?」


「ほうじゃろか・・・Tさんにじゃけぇ言うけど『新しいパジャマ買うちゃる』とか」


Aさんそれは気持ち悪いぞ・・・

何サイドから攻めようとしてるんだ・・・


「買ってもろうたらええやん笑」


「やめてよー!だからちょっとお願いあるんじゃけど」


「なに?」


「Aさんに聞いてみてくれん?Tさん仲良えじゃろ?」


「何を聞くんな?」


「何でそんなに私に構うてくれよるんか」


面倒くさ・・・


その日の夜、AさんにLINEする


「何かママが『Aさん老い先短いちゃうのやろか』って心配してましたよ」


「えっ、何で??」


「そらぁ色々、優しくしてあげとるからちゃいますの?」


「マジか?・・・わかった!」


数日後ママからLINEがきた


「Aさんから突然『僕はしにマジェンタ』ってLINEきたんじゃけど」


まじ面倒くさ・・・


おそらく酔って「僕は死にましぇん」とか入れようとして誤爆したんだろ?


ま、もういいや


「俺、前にAさんに沖縄弁教えたのよ。『しに』ってのは『すごく』って意味なんよ。マジェンタってのはピンク色やん?つまりAさん、『ママにすっごくピンクな気持ち』ちゅうことやわ」


その後、店の女の子から聞いた話では


最近急に色気付いたAさんが言い寄ってくるから、ママが避けてるらしい

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