ありのまま

「満足そうだねえ。」

今、カウンターに誰かがふいに現れて、私の顔を見たら迷わず一言目はその言葉を選ぶだろう。

それくらい私は幸せなおやつの時間を過ごした。


試着室にお客さんがいる、そんなこともすっかり忘れて。


お客さんはそれにしても、遅い。

あの服は似合うはずがないのに。

いや、ここまで言ってしまったらさすがに失礼か。

心の中の声を心の中で否定する。


でも今回は、彼の服を探さない。

彼にはいまの服が似合っている。確かに年季が入っていてよれよれなのは否めないから新調はした方がいいかもしれない。それだけでいい。彼は彼のままでいいのだ。きっとそんな彼を好きだと言ってくれる人もいるだろう。


彼には、これがいいだろう。

カウンターから出て、絵はがきのコーナーから1枚引き抜いて、カウンターの目立つところに置く。


そしてまたカウンターの中の椅子に座った頃、試着室の方から物音が聞こえた。

そろそろ出てくるのだろうか。


いつでもどうぞ、小さく声に出してみた。




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