2番目のボタン
______あ、これいいんじゃないかな。
ほっとしてもう一度カウンターのなかに
戻る。
______頭がぼーっとする。
ここに入ったのが
紗英とカフェに行った帰りだから…と
寝起きのような脳を働かせる。
携帯で時間を確認しようとすると
母親から複数回連絡が来ていた。
「夜ご飯は食べるの?」
「紗英ちゃんといるの?」
「不在着信」
19:39。
たしかに高校に入ってから18:00には帰宅していた娘が急にこんな時間まで帰ってこなかったら驚くだろう。
「ごめん、20:15には帰宅します。」
手短に返信をしてセーターを脱ぐ。
荷物をまとめて制服を整える。
手にはチーズのピンバッチと
試着したセーター。
ピンバッチだけ買って帰ろう、
そう決めて試着室を出る。
扉を開くと優しい匂いが鼻を伝って
すっかり空っぽになってしまった
お腹に届く。
店員さんはもう本の世界から帰ってきていて
試着室から出てきた私をみている。
なにかを見透かされている、
気がするようなそんな目で。
ローファーを履いて
セーターを返してチーズのピンバッチを買おうとカウンターに近寄る。
「あ。」
思わず声が出た。
このセーター。
「かわいいでしょ、ワンポイントで
2番目のボタンだけ色が違うの。
私も気に入って仕入れた。」
得意げに店員さんが話しかけてくる。
「これください。」
気づくと絵梨はそう言っていた。
「もちろん。そっちのセーターは預かっちゃうね。ピンバッチはどうする?」
「ピンバッチも買います。」
店員さんは頷いて
合計金額を電卓に打ち出す。
何も言っていないのにピンバッチは
プレゼント用に、セーターは自宅用に
包装されていく。
「あのなかは考えごとにぴったりなの?」
包装する手を止めずに、唐突に聞いてくる。
カルトンにお金を置きながら
絵梨は答えを探す。
いつの間にか包装は終わっていて
お金もぴったり出し終えた。
商品を受け取りながら
絵梨はつぶやく。
「本当の気持ちに気づけるんです。」
店員さんは満足そうに微笑んだ。
さあ、20:15には家に着かないと。
夜風が気持ちよかった。
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