試着室の向こう

碧海 山葵

1着目

橘 香織

「思ってた感じと違うなあ」

思わず香織はつぶやく。

かわいいなあ、と思って手に取った黒とベージュのバイカラーワンピース。

似合えばいいな、

そんな淡い期待はすぐに鏡に吸収された。


「スカート履いたことある?」

そんな何気ない裕貴也の一言で、いま私はここに立っている。

「もちろん、あるに決まってんじゃん。忘れてるだけで何回も見たことあるよ、絶対。」

動揺してとりあえずそうは言ったものの、確かに思い出せない。おそらくこの動揺が答えだな、と気付かされる。


バンドマンへの憧れを引きずって、私服はほぼ黒スキニーで、出社はパンツスーツ。

私の生活にスカートが入り込む隙はない。


裕貴也の顔がちらつく。



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