超時空超越機 ゼロ・インフィニティ

ローリング・J・K

第1話 ∞

-西暦2138年


「クッソ!!

撃っても撃っても撃ててしまう!

撃っても撃っても撃ってくる!!」


俺はこの戦場に出て何百回目かの悪態をつく。

コクピット内ではモニタからの光がチカチカと巡り、瞳を刺した。


俺はチマチマと敵機に対応するのが面倒になり、仲間に「避けろ」と言ってレーザを長時間放射した。

見えない筋が敵の機体に突き刺さり、白い金属部が赤く融解した。

そのまま右から左へ光線を振り、敵機はそれに応じて爆煙を上げた。

幸い味方機には当たらなかったようだ。


この黒い巨大人形兵器〈ロールエイト〉はパイロットに高い操作性を求めはしない。

何故ならば、その出力を無限に引き出せるからだ。

そのため、歩行、攻撃が出来ればそれで十分。


しかし、それは相手も同じ。

敵側に迫る白い機体〈ゼロツー〉の群れが押し寄せる。


戦場に煌めく白と黒のモザイク。

遠目に見るとムラなく灰色に見える。

つまりは無限の機体と無限の機体にほとんど差異はなく、互いにただただ消耗しているだけなのだ。

この戦地に優劣は無い。


「隊の50%がやられた!退け!退けー!!」


敵側から聞こえた声はもれなくこちらと同じ命令を意味する。

灰色の戦場は白と黒に戻り、自らの巣へ戻っていった。


***


「いつまでやりゃいんだ!こんなこと!!」


俺の声はタカシを震えさせた。

俺たちがただの学友だった時とのギャップだろう。

だがそれならばお前の機械の右腕が一番だ。


「し、仕方ねぇよゲン、俺たちゃ無限のエネルギーを手に入れちまったんだ。互いに増やすことは出来ても、もう減らすことは出来ねぇんだ。」


「それにしたって上の奴らは何も教えてくんねぇ!

永久機関なんてあるわけが無い!

なのに機体からはどこからとも無くエネルギーが溢れて機体を永遠に駆動させるんだ。」


「そんなこと言ったってしょうがないよ。俺たち馬鹿だから現場に回されたんだから」


「おうおう、そんで俺は科学者の息子だから余計に馬鹿ってか!?」


今日も戦場から逃れることが出来た。

そう、生き延びると言うよりは逃げるなのだ。

互いに負けることも、勝つことも無い。


自陣に戻ると必ず愚痴をこぼす、その相手はコロコロ変わってしまうが、タカシだけは毎回生き残る。


そして愚痴はいつの間にかただのじゃれあいになっている。

これが戦友から学友に戻る為に必要なルーティーンなのだ。


その時、腰のホロシートが振動した。

ポケットから筒状のシートを抜いて掌に広げる。


「悪ぃちょっと電話。」

「おう。」


「なんだよ」

俺は小さな声で罵った。


「どうしたの?なんで怒ってるの?今日も生き残れたんだね?凄いね?偉いね?」


「お前は早く死ね。」


「えええ、酷いよ。辛いよ。泣いちゃうよーん!」


コイツはユリカ。

どこで俺を知ったのか知らないが、しつこく俺に付きまとう敵軍の女だ。


「それよりアタシの姿見えた?爆煙にレーザで『I LOVE YOU』って写してたんだけど!」


「ああ、あの『LO YOロヨ』ってなんだろうと思ってたらお前だったのか。スカスカだったぞ。」


「ええ!カビビのビーン!」


ピッ!


俺は電話を切るとホロシートを丸めて腰のポケットに戻した。


「たく、何処でこの番号知ったんだ。」


タカシに「風呂行ってくる」と言って浴場に向かった。


***


「ゲン」


「、、、もしかして父さん?」


行くと何故か軍の浴場に父親が居た。


「ああ、まあなんだ。

こうでもしないとお前は会ってくれないと思ってな。」


当たり前だ。俺は人生の大半を母さんに育てられた。

父さんは俺に科学者のバカ息子というレッテルを貼っただけでどこかに行ってしまった。

そのせいでどれだけバカにされたことか。


「その、なんだ。ああ悪かった。

勝手に軍の浴場に入って。

ここは軍人の憩いの場と言っていいだろう。

そのスペースをこの私一人分圧迫しているのだからな。

だが、お前と話すために仕方なくやった事だ。

許してくれ。

あと家出て行ってごめん。」


「うん、逆な?」


「しかし、これも大義の為だ。

私はお前のもとを去ってでも研究しなくてはならない事があったのだ。

あがったら、ここに来てくれ。」


父さんは去り際、俺に座標を書いたメモ用紙を渡した。


「ここで渡すなよバカが。」


グチャグチャになった黄色いメモ用紙から滲むインクを何とか読み取って、その結果をホロシートに書き写した。


その座標を辿ると俺たち下っ端には立ち入り禁止の研究棟が見えた。

入口の監視員は俺を見ても何も言わない。


そそくさと屋内に入り、父を探した。


***


「待っていたぞ。息子よ。」


適当な部屋のドアを開けると仁王立ちで父親が立っていた。

それやるために迎えなかったのか?


「でなんだよ?

俺らの元を去ってでもしたかったその研究ってのは」


父はやれやれと言った感じで向き直った。


「ああ、そうだな何から話せばいいか。

、、、うむ、お前らの乗っている黒い機体〈ロールエイト〉。

敵軍の乗っている白い機体〈ゼロツー〉。

同じ名が付いていることは知っているな?」


「おー、確か供給元がどの国にも兵器売ってて、敵味方判別するためにオリジナルの読み方にしてるっつうヤツだったか?」


「うむ。そしてその名の由来も知っているな?」


「その名の通り無限にエネルギーが出せる機体だろ?俺達の戦争が止まらない元凶だ。

だからなんなんだよ?」


「これがそのプロトタイプだ。」


父が暗幕を取り払うと奥から巨大なロボットが現れた。

俺たちのロールエイトとは違い、サイズが大きく、装甲も見たことの無い造形になっている。


「これが私が開発した機体。

インフィニティ〉だ。」


「そんな、これを、、、父さんが?」


この機体を、この戦争を作り上げたのは父さんだった?


ならば俺の仲間を殺したのも、敵を殺さなくてはならないのも、全部アンタのせいってことか?


「それで、、、どうしたいんだ?

俺を怒らせて満足か?」


「分かっている。

お前の言いたいことは。

しかし私はあくまでこれを戦争の道具として作ってはいなかった。

だが奴らはこの機体の別の使い道に気づき、後先も考えず、実践に投入してしまったのだ。」


「別の使い道?

てことはコイツは何の為の機械なんだ?

アンタは一体何を研究しているんだ!?」


少しの沈黙の後、父さんは覚悟を決めたように言った。


「お前がこいつを駆ってこの戦争を終わらせる。

いや無かったことにする。


このインフィニティは、





タイムマシンだ。」




なんだって?

永久機関の次はタイムマシン?

どうなってんだこの世界は。


「なんだよ、ロボットがタイムマシンって!

アンタ研究のしすぎでおかしくなってんじゃないのか!?」


「そう思うのも無理はないだろう。

しかし事実だ。

だが証明は出来ない。

過去を変えれば記憶は更新されてしまうからな。

あえて言うならばロールエイトやゼロツーの存在がそれを証明していると言える。」


「ロールエイトが?

どういう事だよ。」


「、、、いや。

とにかくその機体に乗って欲しい。

私はもう、その機体に乗る体力は無いし、信用のならん者をこれに乗せる訳には行かんのだ。」


俺が、、、この機体に乗る?

タイムマシンってことは、、つまり過去に行って戦争を止めるってことか?


その時、爆音が遠くで聞こえたような気がした。

その爆音は段々と大きさを増し、徐々にこの施設に近づいてるように感じた。


「もう、時間は無いようだ。

悪いが決断の猶予は無い。

どうか、、、乗ってくれ。」


俺は初めて父の目を真っ直ぐに見た。

その目は科学者の目であり、父の目であった。


「、、、どう使うんだ?」


父の強ばった頬が緩んだように見えた。


「、、、ありがとう。


さあ、コクピットに乗って!」


開かれたハッチは懐かしいような新しいような感覚を俺に与えた。

基本の操縦はロールエイトの応用で何とかなりそうだが、見たことの無い計器やボタンが俺に不安を与える。


「時間は既に外部端末から10年前に設定してある。

後はハッチを閉めて決定ボタンを押すだけだ。」


「おいアンタはどうなる?」


「、、、この施設の者には金を握らせていたんだがな。

この研究を部外者に知らせたことで私は極刑だろう。」


「そんな!」


「そう思うのなら!

必ず成功させて、私を救ってくれ。」


ったく。救うのがが姫様じゃあなくこんなオッサンなんてな。


「わぁったよ!行ってくるぜ。

父さん。」


俺はハッチを閉めた。

その瞬間まで館内を踏みしめるブーツの音が聞こえ、カチャカチャと携帯する銃器の音が聞こえていた。

カッコつける男の無様な姿は見ないでやるぜ。


「翔べェええええええ!!!

インフィニティーーーー!!!!!」

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