連絡しちゃダメです
@furuto43
(短編)
「嫌です、連絡しちゃだめ」
先輩のアプローチを断った。うん、アプローチだったと思う。
---
まだサークルに入って三ヶ月。顔と名前が一致しない人の方が多いし、なんならこんな顔いたっけ、と不思議になることもある。
元々は週に何回も飲み会をするような、所謂飲みサーだったらしい。でも今は月に一、二回。他にも仲良しのメンバーが集まることはあるけれど、それを足してもせいぜい週に一度くらい。
最初はおそるおそる参加していた。アルコールにはまだまだ慣れないし、勝手に酔いつぶれる人の介抱もめんどくさい。
それでも飲み会に参加してるのは、退屈だったから。それと、顔が好みの先輩がいたから。
---
少し控えめな先輩。かわいい。食べちゃいたい。でも私には彼氏いるしなあ、浮気になっちゃうなあ、と思うとさすがに手が出せない。
高校の時だって、浮気している友達の顛末を何回も見た。メッセージのやりとりがふとした時にバレて、そこから喧嘩になって、勢いで別れる。
さすがに大学生ともなればそこまで単純じゃないと思いたいけど、飲み会で聞く限りだとあまり変わらないみたい。
みんながふざけてネタにするくらいだし、ボロが出た浮気のやりとりなんて実質フリー素材みたいなものなのかな。怖い怖い。
---
そんなことを考えていたある日、先輩と二人で話す機会ができた。
飲み会の帰り、同じ電車。今まで一緒に帰ることがなかったのが不思議なくらい。最寄り駅まで同じだなんて。
先輩もこっちだったんですね。
珍しいですね、いつもラストまでいるのに。
お疲れです?ふらついてません?送りましょうか?
そんな話をしながら、先輩の秘密のひとつでも握ってみたいなって。酔った人は口が軽いし、彼女さんがどんな人だとか、いつもどんなことをしてるとか、そういうのを聞いてみる。
半年前から付き合っている、よく博物館デートをしている、夏にプールに行きたいけどどう誘おうか悩んでいる、そんなことを教えてくれた。
うーん、あんまり秘密っぽくない。わりと普通、というか普通すぎる。もっとこう、人に言えないようなものを洩らしてほしかったのに。残念。
---
そうこうしているうちに、気づけば先輩の家に着いていた。アパートでの一人暮らし。私は実家住みだからちょっと羨ましい。
少し休んでいってよ、というお誘い。善意からの言葉だとわかっていたけど、ちょっと悪いことを考えてしまった。
そうだ、人に言えないこと、作っちゃえばいいんだ。
今回はまだ何もしない。ただ酔った先輩を送って帰るだけ。でも、少しずつ仕掛けたい。
---
どうしようかな、と悩んでいるところで、先輩が声をかけてきた。
そういえば連絡先交換してなかったよね、今度お礼するよ、また連絡するね。
これは願ってもないチャンスだ。その気になればこちらから好きに誘える。
でも、私は用心深い。彼氏にやりとりを見られたら、先輩が彼女さんにやりとりを見られたら、きっと面倒事になる。
そういう恐れがなく、でも確実に先輩と会える方法。メッセージを見られないためには、そもそもメッセージを残さなければいいんだ。
そして始まる悪巧み。私は先輩にこう言った。
嫌です、連絡しちゃだめ。
その代わり、また今度来てもいいですか?
連絡しちゃダメです @furuto43
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます