第25話
「証人、名前と身分を述べよ」
「はい……私は、ジルフィーヌ・エマ・グレーテスです。6年前からエイミー王女のお付きの侍女をしていました」
ジミルは、姉の登場に顔は普段通りだったが、彼の手が少し震えているのをリンゼは見逃さなかった。
同様に、ジルフィーヌも法廷に立つ緊張、と言うよりも何かに怯えている様に感じた。
裁判長である父親も、娘の登場に表情が強張っている。
「証人は、最も被告人の傍で生活を共にしていた女性です。私の陳述に間違いが無いか、立証出来る人間です」
ジミルが言った。
すると、ジルフィーヌは、ごくりと喉を鳴らし、
「検察官の陳述に何も問題はありません。エイミー様は昔から気難しい所があり、頑固であり、国王様も手を焼いていました。国王様はその態度を改める様、幼い時から忠告をしていましたが、エイミー様はそれを改善する事も無く、そのまま成長されました。その頃、妙齢になったエイミー様に御縁談が持ち上がり、ハンナに嫁ぐ前にその頑なな性格を改善させるべく、東の塔で再教育をされる事となりましたが、エイミー様はそれを幽閉されたと勘違いし、国王様に酷い怒りをお持ちの様でした。そして、市中の嘘の噂に激怒し、罪の無い心優しい王妃様を軟禁まで追いやり、更に婚約が破綻してしまった国王様に憤慨したエイミー様は、姫様が唯一持っている凶器、神器の短剣で国王様を
貴族達は「おお……」「そうだったのか……」とジルフィーヌの話を信じている様だ。
エイミーはとにかく大人しく優しい娘だったが、社会性に乏しく、エイミーの人となりを良く知っている貴族は少なかった。
だから、お付き侍女のジルフィーヌが言う事が、貴族たちの「初めて知るエイミー王女」なのだ。
……もし、この場の傍聴席が王宮の兵士や侍女達なら「この話はおかしいのでは?」と思うかもしれない。
しかし、エイミーの本当を知る人間は傍聴席には居ない。
リンゼは、やられた、と思った。
ワザと傍聴席にエイミーの事を知らない人間を集めている事に。
これは、きっとユリア王妃の仕業だ。
エイミーもまた、信頼していた侍女が信じられない陳述を述べる事に衝撃を隠せず、顔色が真っ青だった。
ジルフィーヌもエイミーと目線を会わせず、もうこの場から一刻も立ち去りたいとばかりに俯いている。
そんな姉に、ジミルは言った。
「証人……ありがとうございました」
ジルフィーヌは、一瞬だけ、リンゼを見た。その涙目の瞳は、何かを訴えていたが、すぐに俯いて、そそくさと退出した。
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