第6話 婚約


 それから、5年が経った。


 エイミーは15歳、リンゼは18歳になった。


 エイミーはイギル国の王位継承者。

 16歳には成人の儀を行い、国王である父親を補佐しながら国政に関わる様になる。

 そのため、迫りくる大人へのカウントダウンに一日中図書館で勉強だけをしている訳には行かなくなった。

 朝からお昼過ぎまで、政治や経済、帝王学を学び、午後は身体も鍛える様になった。


 しかし幼い時から勤勉の割に、どの分野も結果はイマイチで……エイミーは自信を無くし焦っていた。


 優秀で無ければ。


 次期女王として、国のため、そして家族のためにも優秀で無ければならないのだ。


 小さい時は成績がイマイチでも「幼いながらも頑張っているエイミー王女」は周囲から好感をもたれていたが、大人になるにつれて「頑張っているエイミー王女」になっていき、最近では「頑張っているだけで、エイミー王女にこの国を任せて大丈夫なのか?」に変わりつつあった。


 そして、落ちこぼれつつあるエイミーに、義理の母や姉は少しずつ彼女にぞんざいな扱いをとる様になってきた。

 実際、10歳離れた姉達の方がそつなく優秀で、エイミーが勝てる分野は歴史ぐらいしかなかったのだ。


 5年経って、体は女性らしく綺麗な曲線を描き、容姿は亡くなった母譲りの美しいハニーブロンドに透き通る様なエメラルドの瞳……を持っているのに、相変わらず髪をひっつめて眼鏡姿。

 服装も地味に灰色のドレスばかりで、完全に女性としての魅力も評価されずに居たのだ。


 そんなエイミーを見て、義母のユリアは国王に進言した。


「エイミーをハンナ国の王子と結婚させましょう」と。


 娘を溺愛している国王は大反対した。


 しかし、ユリア王妃はエイミーの此処で実力が伴わず必死に頑張る姿が気の毒である事、エイミーの存在に国民の不安を抱いている事、更に隣国との友好関係を結ぶ重要さをとくとくと説いて、国王も渋々承諾する事となった。


 そして、ユリアの長女の25歳になるシャルロッテ姫が王位を継承する事が決まったのだ。


 ――ユリアはいつかエイミーを退けて、娘を王位につけようと考えていた。


 ユリアは知恵がある女だったから、エイミーに陰湿な苛めをした所で自分の所に王位が舞い込んでくる事は無いと知っていた。


 だから、5年以上機会を伺っていた。

 その機会が、今、訪れたのだ。


 そして、ユリアの素早い働きによって、隣国ハンナの第一王子とのお見合いの日がやって来たのだった。


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