クリフ物語〜戦乱の倭国編〜

りょう

起:運命の出会い

プロローグ 壱

 俺の名前は『クリフ』。首里しゅり王国おうこくの王子だ。幼い頃から次期国王として育てられ、文武共に厳しい教育を受けた。ただ小国に生まれた事もあり、物心がついた頃には、国外情勢が緊迫してると父上に聞かされた。でも戦争は対岸の火事だ。大丈夫だろう。あの日まではそう思っていた。


 天歴一五九〇年、三月二十一日。首里王国に五大国の一つが侵攻してきた。俺は激しい雷雨らいうが降り注ぐ中、一艘いっそうの小舟に乗せられた。


「おい、今すぐ戻ってくれ!」


 小舟に乗る俺は、急いで戻るように同乗者のスケサクに命じた。コイツは幼い頃からの家臣。何でも言う事を聞いてくれる。


「何を仰いますか。これはターリー様の命令です。ワタクシは決して戻りませぬぞ!」


 ところがこの日に限っては断ってきた。


「何でだよ。わがままなのは自覚してるけど、父上や母上……、それに家臣や領民が戦っているんだ。自分だけ逃げるなんて卑怯だろ」


 俺はかいを奪おうと、スケサクの腰を殴った。すると左手をバチンと叩かれた。家臣でありながら、主君に手を上げるのかよ。クソッ、少し赤くなったじゃないか。


 ドッカーン!


 その時、間断かんだんなく雷光がうねり、絨毯じゅうたん爆撃ばくげきのような激しい破裂音が轟いた。俺は思わず振り返った。叩かれた事も忘れ、首里王国に目をやると、全身の力が抜けた。


「何で雷が……、何で何発も城に……」


 雷は操られているかのように王宮や城下町に降り注いでいた。次々と街が火の海と化す光景が目から離れなかった。荒波に揺られる小舟の上で『天は我に味方せず』と絶望し、変わり果てた故郷に涙が止まらなくなった。


「ク、クリフ様。もはや王国の滅亡は必至ひっし。お辛いでしょうが、ここからは生きる事だけを考えましょうぞ!」


 自分も辛いくせに……。スケサクの健気に振る舞う姿は、俺の気持ちを前に向かせた。この忠誠心に感謝しないとな。


 この日は皮肉にも俺の十歳の誕生日だった。俺は身に纏う真紅ルージュ琉装りゅうそうが雨でいろせるのも気にする事なく、祖国が滅亡するのを見つめ続けた。


 それから三日後、嵐を抜けた俺とスケサクは、首里王国から程近い『倭国』という国に辿り着いた。これが幾多の困難を乗り越えていく俺の『物語ストーリー』の始まりなのであった。

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