別れの告白

赤いもふもふ

別れを告げて

「あなたのことが好きなの」

 空き教室で私にそう告げてきた相手は、私の親友だった。

 それこそ、もう何年も一緒にいた。

 だから今、私は叫び出しそうなのを必死にこらえている。

 彼女が私を好きだと言うその事実は、何より残酷だった。

「……ごめん」

 振り絞った言葉を、彼女は当然の様に受け入れる。元々諦めるためのものだったのだと言う彼女に、私は何も言えなかった。

 何時間にも感じるような静寂を、チャイムの音が切り裂く。

「帰らないとね」

 顔を逸らしたまま言う彼女に、ああと頷いて歩き始める。

 いつもなら並んで歩く廊下で、彼女の少し後ろを歩く。玄関を出て、正門に着くまで私は終始無言だった。

「それじゃ、さよなら」

 そう言って、彼女は背を向けたまま去っていった。

 家に着いた私は、家族に見つからないように部屋まで上がる。

 なぜ、彼女は私に告白したのだろうか。なぜ、私が断ることを当たり前だと言ったのだろうか。

 私は、分かり切ったそれを何度も何度も考えた。


 次の日、彼女は親の都合で転校していった。

 ずっと前から決まっていて、私もそれは知っていた。

 授業中、ふと気づくと誰もいない席を眺めていることがあった。

 周りの人たちが別れを嘆いている中、悲しいだなんて、私はただの一度も言えなかった。

 放課後、私は一人空き教室へと向かった。

 誰もいないそこで、私は叫んだ。

「ふざけるな!」

 反響した声が、自分の耳に響く。 

「馬鹿! なんで、どうして! 自分勝手なやつだ! お前なんて、お前なんて……」

 ぐしゃぐしゃになった頭は、溢れ出る涙を止める術も、湧いてくる悔恨の念を消し去る方法も教えてはくれなかった。

「さよならなんて、勝手に言いやがって……」

 私は昨日考えたようなことを、また何度も考えて、そのたびに涙が頬を伝った。

 彼女があれほど簡単に告げたことを、結局私は告げられなかった。

 それが悔しくて、苦しくって、腹立たしかった。

 私はもう一度大きく叫んだ。

 それだけが、今の私にできることだった。

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別れの告白 赤いもふもふ @akaimohumohu

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