番外編 クリスマスじゃなく聖夜!②


「いや、無理だって。あれは雪かきしても永遠に終わらないって。人魔大陸の天候を舐めんなよ。冬に、しかも聖夜にドンピシャで雪が降るとか、奇跡だから」


 大きくなった腹を苦しそうに持ちながら、シャレムが言い訳っぽいことを言う。

 いや、言い訳しなくても分かっているから。


「この程度の雪で、雪かきを終わらせることなど出来んとは、怠け者にも程があるぞ? 余ならばお茶の子さいさい、指一本で十分じゃ。そういえば、雪かきとは何じゃ???」


 分かっていないのに、どこから湧いてきたのか、その謎の自信は。

 というか何故、魔王ユニが我が家に来ているのか、それが一番な謎だ。


「思い出すね。五百年前、僕の故郷は雪がよく降る土地だったよ。魔王が戦争を始めていなければ、故郷が滅びることは無かったけどね」


 妖精王アレンは和やかにそう言った。

 戦争、というワードはこの場において禁句なのではと、魔王ユニの方を横目で見ると。


「ああ、まったくその通りじゃな」


 腕を組んで、キッパリと返していた。

 いやいや、張本人……だと思っていたのだが、戦争を起こしたのはユニというより彼女の父親、先代の魔王シオンという人物だ。

 魔王ユニはその後を継いだだけで、彼女の人柄からして争いをそこまで望んでいないような気がする。

 交戦的な性格が矛盾してるけど。


「してロベリアよ、余の国に来る気はないか?」

「そうやって隙あらば勧誘するのは辞めろ。何度誘おうと、俺は行かない」

「ハハッ! 見ろ、皆の者! 堅いぞ此奴!」


「「知ってる」」


 腹を抱えて笑う魔王、同意する妖精王と賢者。

 小馬鹿にされているような気がして眉をひそめる。

 家に招き入れたというより二人が勝手に付いてきただけだし、追い出そうかなぁ。


 バンバン!と玄関の扉が叩かれる。

 この豪快な叩き方、一人しかいない。


 扉を開けると、そこには顔を真っ赤にさせた三名が立っていた。

 クラウディア、ジーク、ボロス、めっちゃ酒くさい。


「ロベリア様〜、ただいまで〜す……あてっ」


 ボロスがくるくると回って、壁に頭をぶつけてしまう。相当、酔っているな。


「それじゃコイツを送り届けたからな。私たちは帰る、よい聖夜を」


 魔王と妖精王は帰っていいが、クラウディアとジークなら大歓迎なのに、すぐ帰っていってしまった。

 残念だ。



 リビングに魔王ユニ、妖精王アレン、竜王ボロス。魔族の三大王が集結してしまう。


「あの……何故、魔王と妖精王が家に……?」


 状況が飲み込めず、ボロスが聞いてきた。


「七面鳥を差し出せと言うこと聞かなくて、後をつけられ居座られた」

「そうじゃ! 早く七面鳥を出すのじゃ! 余の腹はまだ一分目だぞ!?」


 魔王ユニは両手にナイフとフォークを握っていた。

 いつでも食べれるように準備万端だ。


「先ほど、チキンを百本も平らげた奴にやる七面鳥はない。貴様にやるぐらいなら、シャレムに完食してもらう」


 そう言うと、ソファで苦しそうに寝っ転がっているシャレムが「ゲッ!?」と声を漏らした。


「そりゃねーゼ、ロベリア〜! ボクの腹を見てみろよ? 妊娠しているかのように膨らんでいるぞ? 赤ちゃん一人分のチキンが詰まっているんだぜ?」

「自業自得だ。今夜の集まりは、前々から予定していたはずだ。嫌でも食わすからな」

「ひぃ〜!」


 魔王とシャレムがしょんぼりと肩を落とす。

 腹減ってる人には食べさせないくせに、満腹の人に食べさせるという鬼畜な状況、悪くない。





 みんなが帰ってくるまでの間はカードゲームで時間を潰す。

 お互いの大事な物をかけた賭けごとをしていた。

 俺は滅多に手に入らない珈琲、ボロスは隠し持っていた酒、シャレムは変な薬、妖精王アレンは妖精粉、魔王ユニは片方の角。

 魔王、それでいいのか……?


 結果、ボロ負けしてしまった。

 ロベリアの不幸体質のせいか、それとも俺がカードゲームがフツーに下手なだけなのか。

 納得いかないが抗議でもしたら、負け犬の遠吠えとバカにされそうなので黙る。


「ハッハハハ! ルールはよく分からんが、勝ったぞ! 運は余を味方したのじゃ! フハッハハ! 今後は竜王ではなく、最弱王と名乗った方が良いのではないか!?」


 全試合を魔王ユニが勝ち抜き、角を折らずに済んだ。何故かボロスだけを集中的に煽っている、そんなにコイツのことが嫌いなのか?

 ボロスは姪っ子を相手にしているかのように、やれやれと負けを認めた。


「ただいまー、楽しそうだね。って! アレンさんとユニさん!?」


 帰ってきたエリーシャが驚愕して、手に持っていた買い物袋を落としてしまう。

 うん、分かる、普通に生きていたらあり得ないメンツだよな。


「ほう、運命の少女か。おかえり。お主に、余の姿を拝謁する栄誉を与えてやろう。光栄に思うのじゃぞ?」

「やめろ」


 調子に乗り出す魔王ユニの頭を手刀する。

 ビキッ。

 ツッコミのつもりだったが、手刀した手から変な音が鳴ってしまう。

 周囲に痛がっていることを勘づかれないようにポーカーフェイスを貫いて、こっそり回復薬を飲む。


「師匠! ただいまー! 聞いてくれよ、こいつがさっきからサンタが居ないって言ってくるんだよ」

「まったくアルスくんはお子ちゃまだから。たった一晩で世界中の子供にプレゼントを届けるおじいちゃんが、この世の何処にいるの?」

「いるったら! いる!」

「いないったらいない!」


 アルスとジェシカが帰ってきて早々に喧嘩を始めてしまう。いや、そこは逆じゃないか。

 まさか年上のアルスがサンタさんを信じているとは、心配するな。

 プレゼントはもう用意している、今夜のサンタさんは俺だ。



 今年のロベリア家は騒がしいな。

 だけど、この忙しない日常こそ俺が求めていた幸せだ。









 目を覚ますと、いつもの狭いアパートにいた。

 ベッドの上で長い夢を見ていたようだ、時計を見ると12月25日。16時30分。

 クリスマスか、一人暮らしなので一緒に過ごす家族がいなければ彼女もいない。

 バイトは休みで、暇なのでいつも遊んでいるソシャゲの周回をしていたら寝落ちしてしまったらしい。

 生活習慣、最悪だな。


 そう思いながら部屋の明かりをオフにして、もう一度ベッドの上で横になる。

 寒さを凌ぐために布団を二枚重ねて、天井を見上げた。

 誰もいない、外の環境音だけが響いてくる真っ暗な部屋の中で、俺は目を瞑った。

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