第128話 決着①



「く、くそ、俺の、俺の腕がぁあああ!!」


 腕を斬り落とされ、喚き散らす三大元帥ラプラを見下ろす。

 黒い炎に包まれた剣を振り上げる。


「ああ、俺の記憶が正しければ魔王軍に加入した俺と魔王を裏切ったのはお前だったな」

「な、何を……?」


 ゲームのシナリオ通りならそうなっているだろう。

 だが、正規ルートからかけ離れた話しの中で、俺たちは生きている。

 ラプラが知らないのは当然だ。


「知らなくてもいいよ」


 剣を振り下ろす。

 二つに切り裂かれたラプラが、炎に包まれる。


「ぐあああああああ!!」


 断末魔を上げるラプラが、炎を消そうと壁にぶつかったり地面を転がっていたりしていたが、それじゃその黒い炎は消えない。


 黒魔術の本質を理解したことで獲得した、ロベリアに隠された本来の黒魔力だから。


「マナ、フェイ、怪我はない?」


 燃え尽きるラプラの肉体を横切りながら二人に聞いた。


「ええ、おかげさまで。どなたか存じ上げませんが、助かりました」

「存じない……?」


 あ、そういえば、さっきから元の口調で喋れているな。

 目線も低くなったし、体が細い。


 自分じゃ見えないけど、肉体の方も戻っちゃったかもしれない。


「ああ、うんうん、そうだね! 初めまして!」


 ロベリアと言っても混乱させるだけだ。

 仲間たちとの答え合わせは、戦いが終わったあとにしよう。


「それじゃ、俺も急いでいるから! また!」


 すぐ近くでベルソルとみんなが戦ってくれている。

 彼らはベルソルに強力な自己修復能力があることを知らない、一刻も早く加勢しないと。


 習得した【浮遊魔術】で空を飛び、闘技場の方を確認する。

 せっかく理想郷のみんなで完成させた闘技場が、もはや瓦礫の山だ。


 それだけではない、町も半分以上が消滅してしまった。

 どれぐらい死傷者が出たのか、想像もしたくない。


「―――!」


 民家が集結する住宅地区から、ベルソルの気配を感知する。

 一方、ずっと戦ってくれていた仲間たちの気配が弱っていた。

 時間が、もうないのだ。








 規格外の戦闘によって崩壊した民家の上で『古の巨人』ベルソルは依然変わりなく、腕を組んで佇んでいた。


「———遅かったじゃねぇか傲慢」


 ずっと待ちかねていたのか、気持ちが悪いぐらい上機嫌だ。

 奴の一撃を喰らって長時間も気絶していた。


 三時間は経過しただろう。

 その間に戦ってくれていた皆は———




 ベルソルの足元には、血を流して倒れているエリーシャ達の姿があった。

 剣も鎧も、全部折られていた。

 生きているのか死んでいるのか、遠くからじゃ判別できない。


「……うん? 雰囲気は似ているが、誰だテメェ? 顔は全くの別人じゃねぇか」


 そんな事は、どうだっていい。

 ありったけの魔力を両足に込め、地面を蹴る。

 その瞬間、視界の光が全部消えたが倒れている仲間たちの位置は把握しているので、一人残らず回収する。



「……ん?」


 何が起きたのかをベルソルは見えていなかったのか情けない声を漏らしていた。

 しかし、俺の気配を感じ取ったのか振り返ってこちらを凝視する。


「いつの間に、そんな所に……?」


 今はベルソルのことなんかより仲間達の安否の方が先だ。

 抱き抱えたエリーシャの口元に手をあてて息をしているのかを確認する。


(良かった、生きていた)


 懐から回復薬を取り出して飲ませる。

 ジーク、クラウディア、ディミトラ、ソウマ、ジェイク、誰一人殺されなかった。


 あと少し遅れていたらベルソルの気分次第では殺されていたかもしれない。

 怒りで震える手で、空になった回復薬を握り潰す。


「……ロベ……リア……?」


 薄目を開けたエリーシャに、掠れた声で名前を呼ばれる。


「ごめん、ごめんね……私たちじゃ勝てなかった……もっと強かったら……ロベリアの役に立てたの……に」


 泣きながら告げる彼女の手を、優しく握りしめる。


「みんなが稼いでくれた時間、絶対に無駄にしないから。だから後は、俺に任せてくれ」


 エリーシャ達は負けていない。

 俺が戻ってくるまでの時間を稼いでくれた。


 すぐに殺されなかったのも、ベルソルに生きるに値する一人前として認められたからかもしれない。


「ずいぶんと楽しませて貰ったぜ。テメェの代わりとまではいかねぇが、努力次第で十二強将も夢じゃねぇ」


 高らかに笑いながら、いつもの余裕で告げるベルソルに怒りが込み上がる。


 理想郷を、仲間達を、無関係の一般市民を巻き込んだ男に今さら、認められて喜ぶ奴なんていないだろ。


「だが、こいつらを生かしたのは———テメェの目の前で殺すためだったんだよ!」


 ベルソルが振り上げたのは、闘技場に残していたはずの斧。


大地断裂ゼルザール


 斧がベルソルを何倍も強くしていた。

 奴の言っていた「本調子ではない」の意味をようやく理解することができた。


 だけど———



「外道が」


 こちらも、同じ土俵にいることを忘れるなよ。

 ベルソルの特有の魔力を込められた斧を片手で受け止める。


 大層な技名だが、俺が受け止めたことで攻撃は不発に終わった。


「なっ……俺の神気と、衝撃を相殺しただと……!?」

「《限制キャスト解除オフ理想郷サイド・オブ・アルカディア》」


 揺らめく黒い炎が呼応し、剣に埒外の黒魔力を集束させる。

 圧倒的なエネルギーが空間を歪ませていた。


 いますぐにでも解放してくれと言わんばかりに膨張し、溢れ出している。



黒燈アーテル・フィギュラティブ幽冥剣ニガレオス・スパーダ



 解き放った膨大な黒魔力による新技がベルソルを呑み込み、天空を真っ二つに断ち切った———

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