第112話 観察をする者達
魔王との試合が行われる闘技場が完成した。
想像の斜め上をいく完成度に胸を高鳴らせ、建造に関わっていた職人たちは揃って雄たけびを上げた。
「試合は明後日。なんとか間に合ったけど、彼等をお出迎えするプランは何も立てていないね」
鍛冶屋を閉め、手伝いに来ていたヤエは疲労で膝をつけながら言った。
「なーんでウチの大将を奪おうとしている連中を丁重にもてなさなきゃならないんだ? 適当に会場に案内すればいいだけだろ、面倒だし」
ごもっともな意見を口にするジェイクに、俺も頷いた。
「魔王軍と友好的な関係を結ぶ気はない。この戦いも奴等の都合に巻き込まれたに過ぎん」
あのメスガキ魔王の眷属になることは、つまり死を意味する。どうやら、そう簡単には俺を逃がしてくれはしないらしい。
(近頃、国の景気も悪くなったな)
この国の国民のほとんどは魔王軍と人族軍の戦争で故郷を失った者達だ。
俺が魔王の眷属になることで理想郷も滅ぼされるのではないかと心配になっているのだろう。
「でもさ、魔王とも同盟を組んだらアズベル大陸の政府どもも手を出せないんじゃねぇか?」
「そんな単純な話ではなかろう阿呆。理想郷が魔王軍に下ったその瞬間、我々はたちまち世界の敵ぞ」
「うおッ! ディミトラ、いつの間に!?」
ジェイクの意見を否定したのは、気配を感じさせず現れたディミトラだった。
金髪セミロング、高身長の女性。
黒スーツに近いキッチリとした服装を纏っており、ここ最近彼女が提案した『幹部服』らしい。
『黒灼魔導団』魔術長だけではなく、理想郷の洋裁師を務めている幹部の一人だ。
「それともジェイクは試合で勝つ自信がないのかや? んん?」
ディミトラは口元に手を当てながら嘲笑うように言った。
「んなわけ無ぇーだろ。こちとら魔王軍と何度も戦ったことがあるんだ。今更びびったりはしねぇよ」
元英傑の騎士団だったジェイクには説得力があった。
魔王軍との戦争が膠着する前、最前線で戦っていたもんな。
「ほう、威勢がよい。ならば負けたら死刑に処すからな?」
「厳しすぎんだろっ!?」
と、まあディミトラはたまに物騒な発言をする人物だ。
悪い人ではないが、周りからは怖がられていた。
目ツキが鋭く、やりかねないからだ。
当初、それを指摘されて『失敬な! 眼差しが鋭いのはなにも小生だけではないぞよ!』と俺を見ながら発言していたな。
失敬なのはどっちなのやら。
「そういうお前も一応出場者なんだろ? 随分と余裕そうだが」
「強者と殺し合える機会ができたのでな、この瞬間を待っていたと言ってもよい!」
ディミトラは待ちきれんばかりに震えていた。
魔族の血が騒ぐのだろうか。
「魔王よ! はよ来おおおい!」
「「「呼ぶな呼ぶな」」」
空に向かって声を張り上げるディミトラを、一同揃って食い止めた。
――――――
「ほう、あれが傲慢の魔術師ですか。想像よりも恐ろしそうに見えないのですが……」
理想郷を見渡せるほど高い岩山の頂に、魔族が三人立っていた。
普通に見下ろしても米粒のように小さいロベリア達を、三人はハッキリ見えていた。
「噂程度だったので信じていなかったのですが、枯れかけた理想郷をここまで発展させるとは……」
目に生気を感じられない男、感情のない声質でつぶやく。
その背後を立っている筋肉隆々の男は唇の両端を吊り上げた。
「関係あるか。そんな事よりも奴の実力が如何なるものか……考えるだけで血が騒いできた」
「高揚するのもいいですが、私たちの本来の目的を忘れないでくださいよ。それに病み上がりなんですから、その時が来るまでは暴れないでください……絶対に」
生気の感じられない男が呆れながら注意する。
「ぐはは、百も承知だ。圧倒的な力でねじ伏せるからこそ愉しい。なあ? リリー?」
筋肉隆々の男の問いかけには答えず、最後尾に立っていた少女は怒り狂った表情で理想郷を見下ろしていた。
その瞳には底しれない憎悪が、何もかもを焼き尽くさんばかりの暗闇が宿っていた。
「殺してやる………ロベリア・クロウリー………」
かつて、同じ屋根の下で暮らしていた
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