第48話 血の海





 宣言通り、船内は地獄と化した。

 こちらの最高戦力を相手に、主に精霊教団らは劣勢に立たされていた。


 光属性魔術で、魔族を一時的に弱体化する結界を張られたが黒魔術で、それを別の効果へと書き換える。


 魔族を逆に活性化する黒魔術だ。

 悪役が魔族や魔物を使役するのが定番だ。


 ロベリアもそれを試みていたらしい。

 まあいい、それをとことん利用させてもらうぞ。


「ぐっ……なんなんだコイツ等! 化け物か!?」


「司祭様、我々の方が劣勢です!!」


「ええい馬鹿者! 神の代行者たる我々が諦めてどうするのですか!? 勝利の女神はいつだって我らにあるのですよ!」


 司祭と呼ばれた男を見る。

 なんだ、ペテン師のアルファン様じゃないか。

 神がどうたらこうとら語っているだけの老害が、殺してやる。


「っ……あ、貴方達! 私を守りなさい! 絶対に通してはなりませんよ!!」


「「は、はい!」」


 そういい司祭様は尻尾を巻いて逃げて行ってしまった。


 あまりの醜態に呆れながら、手始めに向かってくる教団どもを相手する。


「邪魔だ」


漆黒槍ヘルファウスト】溢れんばかりの憎悪の宿った無数の槍が、行く先を阻む害虫どもを蜂の巣にする。


「ぎゃあああ!!」 

「うわあああ!!?」


 悲鳴が途絶え。

 何事もなかったように奴らの屍を通り過ぎる。


「……」


 そこら中から絶叫、悲鳴が聞こえる。

 町の仲間を殺されたことへの憎しみで、戦士たちも加減が利かなくなっている。

 まあ、もとから皆殺しだがな。


 狭い船内で、無闇に魔術を放てば船のどこかが破損してしまう可能性があるため、精霊教団の魔術師らは、接近戦を得意とするこちらの戦士に殺されるしかなかった。


 魔族は戦士長ユーマ、マンフィ、ジェイラ。


 人族はロイド、ムクルス、ウェルダー、アルテナ、アルスだ。


 初めはアルスを置いていくつもりだったが、親友のルイを殺された復讐がしたくて、言うことを聞かなかった。


 仕方なく連れてきたのだが、想像していたよりも戦いに慣れていた。

 まだ子供だというのに人を殺すことに躊躇いもなかった。


「傲慢の魔術師ロベリア! 死ねぇ!」


 エリオットを探すため船内へと入ろうとした瞬間、背後からの不意打ちを食らう。


 だが常時、魔力障壁を展開していたため、不意打ちは不発に終わった。


 振り返えると、そこには見覚えのある顔があった。


 貴族家系のようなイケメン騎士。

 確か、こんな奴も騎士団にいたな。


「……ぐきゃっ!?」


 硬質化した腕で奴の顔面を掴み、握り潰してやった。


 人殺しという行為を今まで避けていたが、コイツらに対して、慈悲やら同情やらが湧いてこない。


 船内への扉を開くと同時に、すぐ傍の壁にユーマによって吹き飛ばされた教団の肉体が叩きつけられる。

 

 まだ息があったのでトドメを刺してから、船の内部に侵入する。


 外はもう、血の海だ。

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