第33話 歪んだ愛
星屑の跡地から北東を真っ直ぐ進めば、海の方にあたる。
その海に最も近い場所に町がある。
魔王軍との長きに渡る戦争で、難民となった魔族と人族が送られる『
アズベル大陸(人の大陸)から住処を失った魔族と人族を船で一番安全地帯と言われている土地へと運び、そこで降ろす。
人々は大昔に残された廃墟やらで生活させ、あとは放置しているといった状態になっている先代から今に至るまでの勇者が管理しているふざけた場所である。
本来の目的地からは遠回りになってしまうが、様子だけでも見に行きたい。
————
砂漠を進むと、赤茶色の峡谷のような場所に辿り着いた。相変わらず天候は良好で、溶けてしまいかねないほど暑い。
道中、B級魔物のサンドワームと遭遇したが、地面に潜られて面倒だったので潜った穴にめがけて風属性と炎属性の混合魔術を放ち、大爆発を起こした。
なんと、他にも潜んでいたサンドワームを十匹以上も巻き込んでしまった。
芋虫の死骸があまりにもグロテスクなためエリーシャは気分を悪くしていたが貴重なタンパク質でもあるので、ちょいと解体。
食える部位を剥ぎ取り、荷物にしまった。
エリーシャは「食べるのですか!?」とあり得ない表情をしていたが、前世ボーイスカウトに所属していた俺にとっては普通のことである。
試しに味見をしてみたが、苦い。
それに泥と砂の味もするが大丈夫、貴重なタンパク源だ。
なんやかんや、エリーシャとはよく話すようになった。彼女の方から、あまり話題を振ることはなかったのだが旅が開始してもう一週間は経過するので、そろそろ慣れてきたらしい。
それでも信頼はまだされていないようだ。
「……どうしても、判らないんです」
いつもの夜。
いつもの野営。
焚き火の前でエリーシャは、ぽつりと口を開いた。
「私との転移が予想外のものでしたら、わざわざ私の面倒を見る必要がないはずです。それなのに、どうして私を置いていかなかったんですか……?」
言われてみれば、そうだな。
本来のロベリア人格なら、エリーシャを助ける道理なんてないだろう。
寧ろ、足手まといなので知らんぷりで寝ている彼女を置いていったろう。
「私があの時、庇ったからですか?」
ラインハルの聖剣が振り下ろされそうになった時にエリーシャは俺を庇ってくれた。
確かに命をかけてくれた事には恩は感じているが、それではない。
ただ単純に俺は、エリーシャには死んで欲しくないからだ。
彼女が死んでしまったら、この先不利になるのは間違いないことだ。
けど、個人的な私情になるのだが。
———ラインハルと、長生きして欲しい。
それだけが、この作品のメインヒロインであるエリーシャが幸せになれる道なのだから。
甘い考えだと思われるかもしれないけど、俺だって元はラインハル目線でこのゲームを遊んでいたのだ。
エリーシャがヒロインで、とても素直で可愛らしい子だ。
ドジで、お人好し、花が大好きで、常に誰かの幸せを願っている。
主人公が大好きだが、鈍感な馬鹿(主人公)はそのあからさまな気持ちにも気づけず、手さえ繋いだことがあまりない。
純粋無垢で清潔な処女なのだ。
「勘違いしないでください。どれもこれもラインハルの為にやったことですから、彼には殺人鬼にはなって欲しくなかった。だから私は貴方を庇ったのです……」
「ふっ。歪んでいるな貴様も」
唯一の欠点はラインハルだけしか見ていないところだ。
ラインハルが間違ったことをすれば一応はエリーシャも意見を言うが、誰かが傷つけられても主人公が無事であれば、それで良しといった思考だ。
正直、その依存性にだけは共感はできない。
「歪んでいる、ですか?」
「ラインハルの為に、と言っているが初めに問題を起こしたのは奴の方だ。許されていいと思っているのか?」
「良いに決まっているじゃないですか! だって彼はとっても優しいんです! 誤解もあったとは思いますけどちゃんと話し合って謝れば……」
「その話し合いを拒んだのも奴だ」
「っ!?」
エリーシャは黙った。
流石に、言い返せないか。
被害者よりも加害者の方を優先していたのだから、相当ショックだろう。
「貴様が俺を庇ったからどうとか関係ない。俺と一緒にいる以上は、死ぬことは許さん」
「どうして?」
「……こっちの不都合になるからだ」
意味深な感じに言ってしまった。
それでも、エリーシャはそれ以上の質問をしてこなくなった。
もう寝ることにした。
見張りばかりで疲れた。
今回だけは1時間の睡眠をとろう。
何も言えず、俯いたままのエリーシャから視線を外し、壁に寄りかかる。
今日は、よく星が見える。
俺はそのまま眠りに落ちるのだった。
――――
目を覚ますが、まだ夜中だ。
小1時間しか寝ていないのだから、暗いのは当たり前だ。
とりあえずエリーシャの様子を確認することにした。
まだ怒っているのか拗ねているかもしれない。
それかもう寝ているかもしれないが、生存確認は常にしておかなければ。
恐る恐る、彼女の座っていた場所を確認する。
しかし、誰もいなかった。
周囲を見渡すが、気配が一切感じられない。
まさかエリーシャの奴、一人で……!
寝ている間に逃げられてしまったのだ。
この大陸での単独行動が死に繋がると、あれほど説明したというのに。
早く、見つけ出さなければ――――
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