第18話 英傑の騎士団との衝突



「ふふ……ここで待ち伏せをしていれば、確実に殺せるわね」


「ゾルデア姉。それはアカンって。俺達の依頼は、獣人族の姫さんを連れ戻すことって言ったでしょう? 殺したら、戦争不可避ですぜ?」


「あら、そうだったわね……うっかり」


 頭をコツンと叩く、頬にダイヤの模様のついた女性。まるで不思議な国に登場しそうな赤い恰好をしており、危なっかしい大鎌を背中に背負っていた。


 そして、そんな彼女の言動に冷えた汗をかく仲間。ヒョロイが、歴戦の猛者に相応しい魔術の付与された装備を身に纏っていた。

 武器は歪な形をした弓、弓兵なのである。


 山を通過するためにはこの道を通るしかない。単純バカなリーデアなら考えなしに通ろうとするだろうと予想して森の中で待ち伏せをしていたのだろう。

 正解です。


『妾は自由にゃり~!』と喜んでいるところを確保するのが二人の計画である。


「しっかし簡単な仕事ですよね。おバカな姫様を連れ戻すだけで報酬がたんまり貰えるから、これを本業にして生活していきてぇな」


「……ええ、殺すだけですからね」


「だから、駄目だっての!」


 茂みに潜みながら会話で暇をつぶす二人の頭上を、リーデアを抱えた俺は飛び越えるのだった。

 流石に気づかれたのか、驚愕した表情でこちらを見上げていた。


 まさか空から現れるだなんて思わなかっただろう。俺も、山から飛び降りるという経験は初めてだ。


「ふんっ、間抜けどもが」


 そう吐き捨て、風属性魔術で飛行状態を調整する。低空飛行は、やはり難しい。

 森の上を飛行しているのだが、時々高い木に衝突しそうでヒヤヒヤする。


 一方のリーデアは高いところが苦手な猫なのか、滅茶苦茶抱きついてくるので苦しい。特にコイツのでっかい胸、乳圧が凄まじく邪魔だ。


「このまま開けた場所に着地するぞ!」


「にゃっにゃっ! 後ろ!」


 リーデアが後ろを凝視して叫んだ。

 背後から百を超える矢が、向かってきていた。


 追尾してくる矢を炎属性魔術【炎精霊の息吹】で次々と打ち落としていくが、あまりにも多い。全部、打ち落とすことができず【魔力障壁】で防ごうとしたが手遅れだった。


 そのまま着弾してしまった。






 ――――






 空に大きな爆発が起こる。

 弓使いジェイクは対象に命中したことを感じとると深い溜息をつき、弓を下した。


『神装グレイボウ』は魔力で矢を生成する神の武器である。


 まさか、半分も打ち落とされるとは思わず冷や汗をかいたが何とか命中してくれた。

 しかし姫様も巻き添えを食らったに違いない。


 多少の手荒は許されているが、死んでいないことをジェイクは祈る。


「あら、先ほど殺すなと注意してたくせに。ズルいわね」


「いや……なんていうか。血が騒いだつーか……」


 嘘をつくことが出来ないジェイクは言葉に詰まる。本当に死んでいたらマズいのだ、英傑の騎士団をクビにされかねない。


 一方のゾルデアは獲物を奪われたことに落ち込んでいた。とりあえず落下地点を確認して姫が生存していれば任務達成だ。


 刹那、鬼に睨まれたかのような恐怖感が、唐突に二人を襲う。

 先ほど姫を抱えていた男が、まだ生きている。


 ジェイクとゾルデアはそう確信した。


「厄介な用心棒をお持ちのようですわね……ふふ、ひひっ」


「姉さん、気を付けでください。奴ですよ……」


 全てを闇に飲み込むほどの黒い魔力を散らしながら、ロベリアが二人の元へと向かっていた。


「簡単な仕事」という発言を前言撤回し、二人は震えながら武器を構えた。


 まもなくして傲慢の魔術師の登場である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る