第4話 チート魔術師の無双
馬車を襲う魔物の群れを囲むように、赤黒い魔法陣を出現させる。
周囲に密集する木々に延焼しないよう、神経を研ぎ澄ませて魔力を制御する。
狙うは魔法陣の範囲内にいる魔物のみ。
一頭残らず、灰に還す。
炎属性の上級魔術【
「うおっ、何だ!? 魔物たちが急に燃え……!」
「追手が来たのか?」
「反乱者どもの追手なら、俺たちも巻き込まれてるはずだろ……」
凄まじい熱波が過ぎ去った後、魔法陣の範囲内にいた魔物がすべて炭化して崩れ落ちたのを確認し、俺はゆっくりと茂みから姿を現した。
運良く範囲外に逃げ延びた生き残りの魔物に視線を移す。敵と認識されたのか、牙を剥き出しにして威嚇してきた。
ならばこちらも、満遍なく殺意を込めて睨み返す。
「——ッ!」
俺の視線に、魔物が怯んだ。
勝てないと本能で悟ったのか、奴らは悲鳴のような鳴き声を上げて、そそくさと尻尾を巻いて逃げ去っていった。
撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけ、ってことか。
「……貴様ら、何を固まって見ている?」
静まり返った現場。
突然現れた謎の魔術師に呆気にとられる騎士たちへ、俺は冷然と言い放った。
「仲間が怪我しているなら、さっさと応急処置をしてやれ。早くしろ」
腕を噛まれた騎士に目をやりながら告げる。
普通に声をかけたつもりだったのに……あれ、なんか言い方が冷たくないか?
まさか、このキャラの口調でしか喋れなくなってるのか?
ロベリアの記憶や知識を受け継いだだけでなく、この不遜な態度や毒舌まで強制的に引き継いでしまったというのか?
「あ……えっ……ええと、貴方は……誰なのですか?」
「そんなこと今はどうでもいい。口より手を動かせ。ほら、仲間が死んでしまうぞ。さっさと手伝え」
「あっ……は、はい! ただいま!」
俺の剣幕に押された騎士が、慌てて素直に返事をする。
俺は懐から小瓶を取り出し、投げ渡した。
最初は警戒していたようだが、状況が状況だけに、騎士は縋るように薬品を受け取ってくれた。
生前の記憶が正しければ、今渡した薬品はロベリアが研究の片手間に開発したものだ。
上級回復薬すら凌駕する性能を持ち、傷だけでなくあらゆる呪いや状態異常を同時に癒す秘薬のはず。
噛みちぎられた腕を押さえ、苦しむ男に薬を飲ませる。
本当に効果があるのかとドキドキしながら見守っていると。
「う、うう……?」
なんと、見るも無惨だった傷口が一瞬で塞がり、綺麗に癒えたではないか。
荒々しかった呼吸も落ち着き、苦しんでいた男は安らかな寝息を立て始めた。
「「おおおお!!」」
後ろで固唾を呑んで見ていた若い騎士と女騎士が、同時に感嘆の声を上げた。
ただ、残念なことに俺が作った薬じゃないから、ドヤ顔するわけにもいかない。
そもそもこの悪人面でドヤれるかどうかも怪しいけど。
「感謝します、魔術師様! 貴方の助力のおかげで窮地を脱することができました! なんとお礼を申し上げれば……」
馬車から、一人の少女が降りてきた。
艶やかな茶髪のセミロング。こちらに向けられた青い瞳には、微塵の恐れもない。
気品と美しさを兼ね備えたこの姫は、記憶にある姿と合致する。
反乱で崩壊した王家の生き残り、リアン・アズベールではないか。
なぜこんな危険な森に、一国の姫が少ない護衛だけで馬車移動しているのか。
国内情勢の悪化で反乱が起き、王は殺害され、その娘であるリアンは追われの身となった。
国外逃亡を図り、人目につきにくい危険なルートを進んでいたが、案の定魔物に襲われ、今に至るのだろう。
よくよく思い返せば、本来のストーリー上では俺が通りかからなくてもリアン姫は助かるはずだ。
ただし、馬車を護衛していた近衛騎士たちは全滅するという犠牲を払って。
(……待てよ?)
そういえば、リアン姫と一緒に馬車に乗っていた側近の老人もいたはずだ。
助けてもらったというのに、こちらを蛇のごとく睨みつけてくる執事服の老人、姫の後ろに控える彼だ。
本来なら、リアン姫はこれから主人公ラインハルのギルド『英傑の騎士団』に助けを求めるため、拠点のある町へ逃げ込む流れだ。
でも、一人の犠牲者も出さずに助けてしまったことで、展開が変わったりしないだろうか?
少し心配になってきた。
「礼ならいい。ちょうど退屈してたところだったからな。いい暇つぶしになった」
「いえ、救われたのは事実です! 何か形になるものでも、どうかお礼をさせてください!」
「いけません、姫様!」
鋭い声が響いた。
リアン姫の後ろにいた側近の老人ユリウスだ。
「ユリウス、何事ですか?」
「何事も何も、その者から今すぐ離れてください!」
「しかし、それでは私たちを救ってくれた恩人に無礼では……」
「いいから言うことを聞いてください! くっ、傲慢の魔術師》め! 何が目的なのだ!?」
どうやら側近のユリウスは、俺の正体を知っていたらしい。
その二つ名を聞いた途端、周囲の近衛騎士たちも態度を急変させ、一斉に剣を俺に向けた。
ただ、若い騎士だけはまだ状況を飲み込めず、オロオロと慌てふためいている。
「さあ姫、こちらへ!」
ユリウスに腕を掴まれ、強引に馬車へと連れ戻されるリアン姫。
彼女だけは、申し訳なさそうな、それでいて何か言いたげな瞳でこちらを見ていた。
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