第3話 襲撃されるお姫様の馬車



 どうも瀬戸せと有馬ありまです。

 今年23歳になるフリーターです。


 趣味はゲームで遊ぶことだったんですけど、まさか遊んでいたゲームの世界に入り込んでしまうとは世の中、不思議なこともあるんですね。


 しかも、いずれ主人公に殺されるみんなの大っ嫌いな悪役に転生してしまったようです。


 夢なら早く覚めてくれと何度も頬をつねってみたんですけど、覚める気配が一向にしません。




「夢ではないのならば、何なんだ……?」


 記憶が正しければ、近くにあの王国があるはずだ。


 情報収集、行動するための活動拠点として利用してもいいかもしれない。


 ところが、その王国の君主が絵に描いたような暴君で、いい噂を聞かない。


 正直なところ行きたくないのだが、ここから一番近い距離なので、背に腹は代えられない。


 このままずっと東の方に進んでいけば森に差し掛かる。


“迷いの森”とかいう物騒な名前の森なのだが、ゲームをやり込んだプレイヤーなら、そこまで攻略の難しい場所ではない。

 英傑の騎士団とこやり合える傲慢の魔術師ロベリアなら猶更である。


 だけど別人格なのに、平気かって?

 それなら心配は無用だ。


 どういった原理かは定かではないが、この肉体に憑依した日から、ロベリアが今まで培ってきた経験や知識が記憶に共有されている。


 おかげでロベリアが習得している魔術のほとんどを、使用することができた。

 基本から上級者向け、さらに強大な魔術など、優秀な魔術師だけあってロベリアの魔術レパートリーは豊富である。



 他にも、目的地に早く到着したいときに役立つ便利な移動方法がある。

 風属性魔術を足元に凝縮させ、跳ぶと同時に拡散させ、押し出す力を利用して、身体を飛びたい方向へと長距離吹っ飛ばす。

魔術師らしい移動方法である。


 簡単そうに聞こえるが、連続で同じ魔術を行う必要があるため魔力消費が激しく、魔力量に自信のある魔術師以外はあまりお勧めできない。

 しかし、この肉体ロベリアの魔力量が尋常じゃないくらい多いため、大した消費にはならない。


 絶大な威力をもった魔術を繰り返して使用できるほどの魔力量を保有しているので、これはもう……無双ライフを約束されたようなものではないか?



 少しでも慣れるために色々な魔術を試し打ちしながら移動していたら、いつの間にか”迷いの森”に到着していた。


 すぐ近くには街道が伸びており、そこを沿って進めば迷うことはないだろう。


 同じ方法で木々を飛び越え、枝に着地しては同じ動作を繰り返す。


 まるで某忍者漫画の主人公になったような気分だ。


「むっ……」


 すぐ近くで、戦っているような音が聞こえた。

 イベントが発生したときの感覚で音のする方を目指すと、やはり誰かが戦っていた。


 そこには馬車があり、それを護衛しているであろう四人の騎士が、狼のような姿をした魔物に苦戦を強いられていた。


 フォレスト・ウルフだ。

 素早く動くため攻撃は当たりにくく、さらには噛んで毒状態にしてくる厄介な特性を持った魔物どもだ。

 苦戦するのも無理もない。


「姫様を守れ! 絶対に通すな!」


 リーダーの騎士が、戦意を削がれていく仲間たちに何としても馬車の中にいる姫を守るよう伝える。


 それでも一人が片腕を噛まれ、もう一人は武器を破損するという最悪の戦局だ。このままでは全滅してしまう。


(これは助けるの一択だな……)


 馬車の中にいる姫とは面識はないが、目の前にある命を見捨てるわけにはいかない。


 それに、これはチャンスなのだ。

 人助けをすることで、ロベリアの死亡エンドを改変できるかもしれない。

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