エイちゃんの独り語り~あるいは三条璃子という少女について
実は私、父が呪術師でして。
母とは私が生まれてすぐ離婚して、父子家庭だったんですけど、やっぱりお金が必要だからって、あんまり良くない仕事とかも請け負ってたんですよ。
ただ、本人的には研究職の方が性に合ってたみたいで、色々と新技術の開発なんかをして、それを企業というか、怪しい組織に売ったりしてたんですよね。
その一環で作られたのが、人工怪異なんです。
まあそれ自体は昔っからあったんですけど、ほら、式神とか使い魔とかってよく言うじゃないですか。
ただ、ああいうのって、使える人が限られるんですよね。それこそ術師として尖った技術がないといけないので。
先輩。お化けとか妖怪とかって、そういうの見える人、世の中にどのくらいいると思います?
あは。ですよね。知らなくて当たり前ですよね。
ええっと、日本の場合、確か三年前くらいの統計で人口の0.5パーセントくらいだそうです。ヨーロッパの方だとちょっと多いらしいですよ。逆に韓国あたりは少ないそうで。
で、じゃあその中で、リコ先輩みたいに自分の力を使って術を発現できる人は、っていうと、もう0.001~2パーセントくらいなんですって。
つまりですね。ほとんどの人はそんなオカルトなんて触れる機会もないのに、僅かに可能性がある人たちですら、それに対して何をどうすることもできないってことなんですよ。せいぜいお祓いしたりお清めしたりお呪いかけたりして悪影響がないようにするのが精一杯。
あ、後は極々たまに、あの三人みたいに、怪異そのものと契約して術を使うっていうのもありますけど、ホントに例外なんですよ。ああいうの。普通に危ないです。
だから私の父は、誰にでも簡単に使えて、効果が確かにあって、しかも安全な呪術っていうのを開発したんです。それが、新世代の人工怪異ってわけです。
そうです。
先輩。妖怪の絵って、よく黒い靄というか煙みたいなのが一緒に描かれることが多いんですけど、分かります?
そうそう。あれ、なにか知ってますか?
そうです。瘴気ってやつです。
じゃあ、瘴気ってなにか説明できます?
あはは。ですよね。ちなみにこの質問、本職の人でもたまに答えられない人いるんですよ。
そうなんです。よく分からないが正解なんです。
だって科学的な計器じゃ計測できないんですもん。
場吉は、そういうよく分からないものに形を与えた怪異なんですよ。
なんか分からないけど、なんとなく良くないもののような気がする。
よく分からないけど気味が悪い。
そんな気がする。
そういう漠然とした不安とか怖いなーって気持ちの集まりっていうか、具現化……でもないな。象徴? みたいな、そんな感じです。
私の言うことを聞いてくれるし、私に何か悪影響があることもない。だって私は場吉のことを知ってるし、別に怖くもないですからね。
結構画期的な発明だったんですけど、残念ながらウチの父、研究成果を証明する前にしょっ引かれてしまいまして。
そうなんです。今お勤め中です。
いえ普通に犯罪で。
あ、なんか今、私、父のことリスペクトしてるみたいな喋り方してました?
やだな。普通に軽蔑してますよ。あんなクソオヤジ。
問題はですね。
父が裏方の悪いことしてた取引相手が、場吉に目をかけてたことなんですよね。目をかけたは言い過ぎかな。ちょっと気になってたくらいですかね。
つまりですね。私が場吉を使ってその有用性を証明出来たら、正式に私にお給金を払ってくれることになってるんですよ。
で、ようやくここからが本題なんですけど。
リコ先輩。私と一緒にバイトしませんか?
リコ先輩の刺繍、ホントに凄いんですよ。
だって、あんな小さな面積で、あの『伏字』を抑えきってるんですよ?
護符として使うだけなんてもったいないです。いくらでも応用できますよ。
私も一応はあの父の娘ですから、そういう研究的なものは齧ってるんですけど、一晩かけて解析しても全然仕組みが解けませんでした。
なのでもういっそのこと、先輩自身をこちらに引き込んでしまうというのはどうかと思いまして。
実は、キツネ先輩たちが所属してるトコって、業界最大手の古株でして。あそこの構成員三人相手取って完封したなんて、もう大金星ですよ。私と場吉の評判もうなぎ上り、株爆上げです。私、リコ先輩のことも隠さずきちんと報告入れますから。そしたら向こうが頭下げて勧誘に来ますって。
もうパン屋のバイトなんか目じゃないくらい儲かりますよ~。
それも、そんなにガツガツ働く必要なんてないです。大事なのはシステムですからね。
元手があれば、場吉みたいな人工怪異も量産できます。
父の意向でこんなパンクロッカーみたいな恰好させてますけど、そこは製作者と使用者のお好みで色んな姿形に設定できますから。
どうですか。
キツネ先輩そっくりの執事とか、作ってみたくないです?
あの虫使いそっくりの従順な奴隷とか、欲しくないです?
言うこと、なんでも聞いてくれますよ?
お世話してくれますよ?
お。
動いてますね?
揺れてますね?
ふふふのふ。
でもですね。
一番大事なことはソコじゃないんです。
私だって、別にリコ先輩に特別な力があるからってだけで誘ってるわけじゃないんですよ。
だってリコ先輩。そういうの気にしない人ですよね?
別に自分に関係ない人たちが呪われようが傷つけられようが、気にしないですよね?
大事なのはそこなんですよ。気にしないっていうのが大事なんです。例えばそこで正義感出して憤る人はもちろんアウトですけど、『いいぞもっとやれ』とか『私ならもっとこうする』とかって人もダメなんです。だって危ないじゃないですか。
知ってますよ。リコ先輩、前に部室でツッキーの可愛がってたペットが死んじゃって、って話してたとき、普通にガチャ回してましたよね。
みんなでツッキー慰めてたとき、リコ先輩も周りに合わせた振りだけはしてたけど、こっそりスマホ弄ってたでしょ?
あ、この人はこっち側だ、って思ったんですよ。
自分の大事なものの方が、他人より大事ですよね。
分かります分かります。私もあのとき『マックの新作食いてえ』って思ってましたし。
ね?
大丈夫ですよ。リコ先輩なら上手くやっていけますって。私もいますし。
どうですか?
お仕事、手伝ってくれません?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます