コンと鳴いてヒラリと舞って斬!!

lager

プロローグ

 きちきちと、軋るような音が聞こえる。

 ぶぶ。ぶぶ、と、羽音が聞こえる。

 蠢く無数の小さな影。

 這いまわる。

 生臭い匂い。

 鉄の味。


 空気は蒸し暑く、次から次へと汗が滲む。

 それなのに、私の体はどこまでも冷えていき、指先が痺れていく。

 倒れこんだ地面が冷たい。

 頬にあたる風に、熱気がこもっている。


 火が燃えている。

 夕闇の中にぼうぼうと燃える、オレンジ色の光。

 その明かりに照らされて、闇の中に浮かび上がる、虫。虫。虫。


 丸いもの。長いもの。飛ぶもの。跳ねるもの。角のあるもの。鋏のあるもの。足のあるもの。足のないもの。


 大小さまざまな虫たちが空と地面を埋め尽くし、私を取り囲んでいる。


 そして、刃。

 燃え盛る炎の色を刀身に写し取り、濡れたように光る日本刀。

 それを握る黒づくめの男。

 血の匂い。

 赤くて黒い。


 男の足元には、胴体からどくどくと血を流す少女の体。

 糸の切れた人形のように倒れ伏した体。

 先ほどまで、言葉を交わしていたはずの人間。


 一歩。また一歩。

 男が私に近づいてくる。


 黒くて赤い。


 ぞっとするほど美しい刃が、私の頭上に振りかざされた。

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