わたしはあなたへ刃を贈る

底道つかさ

序/12月25日

 それは二人の幸せな最後の記憶。

「お互い、聖夜の贈り物にしては無難な物を選んだわよね」 

「成果とは決着に至ったという意味だけで、それ自体が最重要では無い」

「私にこんな可愛いけど似合わない物を選ぶ経過が重要だったてこと?女子にとってはその成果とやらが重要なのですけれど」

「いや、今はまだ決着の前だ。つまり一番の勝負所だ」

「ほほう。自分色に染め上げるまでが勝負とか?そして目線を下げて見つめているのは必殺技の準備ですかな?思い知ってるだろけど私は手ごわいわよ~」

「——すごく可愛い。最高の恋人だ。似合ってないなんてことは絶対に無い」

「~~っ!!こっ……の、ばっ……。うう~~っ!!」

「その表情は大切にしたい成果だな」

「あんたね。二段構えで不意打ちとか、いつものやり口と全然違うじゃん!そういうのを剣に生かしたら模擬戦でいつも私にぶっ叩かれずに済むんじゃないの?」

「こんな奇策はお前を喜ばせる為だから許したことだ。恋人に贈り物をするならば俺とてこれくらいはするとも。だが、剣においては技こそ全て。剣技を尽くす事に最大の価値がある」

「……勝った上で自分の命を守れなければ意味が無いじゃない」

「俺にとっては最優先では無い。刃乱血風の先に何が失われ何が残ったかは、責任はあっても大切ではない。そこに拘るならば銃なり爆弾なり使えばいいのだ。お前こそそういう事を言いながら何故未だに剣を振るっている」

「ふん。それは、結果の為に使う手段として私にとって最も自然で有効だからよ。脚があるなら二足歩行で歩くのが人間にとっては自然でしょ。同じことよ?」

「その自然な手段で何度死にかけた。運も実力の内は認めるが、そもそも不利な状況に身を置かない判断力があるという前提で成り立つものだ」

「…………」

「勝負所で常に自分に風が吹くと思っていたら長くないぞ。勝ち続ける博打は無い」

「まず最初に言っておくと、あんたにだけはそれ言われたくないんだけど」

「…………」

「あえて答えるけど生まれてからずーっとこれしかやってないのに、今更他の手段を身に付けようとする方がリスクが大きくないかしら。それに大丈夫よ。運が尽きたらそこまで。そこからは運以外を使って勝てばいいのよ」

「生きる為の手段を上達させる事に人生を使い果たすのは矛盾してはいないか」

「手段に拘って生きていけるなら死んでも構わないのは本末転倒ではないの?」

「……相容れないな。相変わらず」

「でも、好きなんでしょ?」

「ははっ、そうだとも」

「ふふ、私もよ」

「…………」

「…………」

「零時の鐘か」

「聖なる夜、終わっちゃうね。しばらくはお互い任務で忙しいから次に会うのは……バレンタインかしら」

「そうだな」

「心配しなくてもちゃんとチョコあげるわ。今から喜んでもいいわよ?」

「そうか。なら俺からも一つ贈ろう。元々はそういう風習だ」

「えっ……。それはうれしいけど、また今日みたいなのはちょっと……」

「意地悪はもうしない。素直に喜べる物を贈る。誓おう。俺からお前へと、一番相応しくて素晴らしい物を贈ると」

「それって……ふふっ。楽しみだわ」

 それなのに、この次にあった時、私たちは。

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