ビーズとシーグラス

下野 みかも

第1話 ビーズのブレスレット

 ぼーっと、海を見ていた。

 秋の海。

 お兄ちゃん、お姉ちゃん達は、砂浜に棒で絵を描いて、遊んでる。

 私はちょっと離れた岩場に座って、海を見つめる。

 となりの県。 私の住んでるところには、海がないから。

 家族旅行、温泉の帰り。 ご飯、食べられるやつ、少なかったな。 お魚の料理ばっかりで、苦手だった。 なんか……かわいそうだから。

 ぱちゃん、と音がする。 お魚が、近くで跳ねたかな。

 ぱちゃ、ぱちゃ、と何度も音がする。 元気だな。

「こんにちは」

 女の子の、声がする。 振り返っても、誰もいない。

「こっちだよ」

 こっち? 声のした方、海の方を見る。 長い髪を横結びにした女の子が、顔を出して手を振ってる。

「こん……にちは。 そこ、泳いじゃだめなところでしょ。 禁止だよ」

 岩場の下、このあたりは、禁止の札の向こう側。

「きんしだよ?」

 女の子は、首をかしげる。

 禁止、分かんないのかな。 黄色に、黒の字で書いてあるのに。

「き・ん・し。 泳いだら危ないから、だめですよ、ってこと」

 女の子、にこっとする。 

「いいんだよ。 ちがうから」

 違う? 何がだろ。 女の子は、私の手首を指差す。

「ね、きらきら、きれいだね」

 手首のきらきらは、ブレスレット。 昨日、温泉に行く途中で寄ったお店で、お姉ちゃんと一緒に作った。 ビーズを、自分で選ぶやつ。

「ブレスレット、作ったんだ。 お魚、イルカ、貝殻、お星様、ハート……いろんなビーズが選べたよ。 行ってみたら」

 女の子は、首を振る。

「いけないもん。 それに、おほしさまじゃなくて、ひとでだよ」

「そ、そうかな。 お星様だと思うけど……」

 海、大好きなのかな。 ふつう、これって、お星様だよ。

「行けないの? 場所、分かんないから? ネットで調べるときっと、出てくるよ」

「あみ……きらい」

 あみ……網? ネットのこと……? 変な子。

「とりかえっこ……したいな」

 女の子は、自分の髪の毛をくくっていたゴムを外して、見せてくれる。 きらきら光って、かわいい。

「きれい。 宝石みたい」

「えへへ……。 がらすだよ。 うみのそこ、おちてる。 まるいから、あぶなくない」

「ガラス? 海の底で拾うと、丸いの?」

 知らなかった。 青、緑、薄い茶色、透明の、きらきらのついた、ゴム。

「じゃあ……いいよ。 交換ね。 こっち、上がってこられる?」

 女の子はにこにこになる。 でも、上がってはこられない、って、首を振る。

「お、下りるの、こわいなぁ……。 待ってて。 私、行くから」

 そうっと、少しずつ。

 気を付けてたはずなのに、足が滑った。 頭をごちんと打つ。 そのまま海へ、滑り落ちた。



 目が覚めたら、砂浜にいた。

夕海ゆうみ! 大丈夫?」

 ママ。 パパ。 お兄ちゃん、お姉ちゃん。

「いて……」

 色んなところに、擦り傷がある。 血が出てる。 頭も、痛い。

「夕海がいなくなって、皆で探して、そしたら、ここで傷だらけで、寝てたのよ。 どこ行ってたの。 ばか」

 ママが、怒る。 私は体を起こす。

「いたい……」

 ふと、右手を見る。 手首にはきらきらの、宝石みたいなガラスのヘアゴムが巻かれていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る