008 ドラゴン退治
「ノーマルドラゴンを簡単に倒せる武器ねぇ」
コネットの言葉に、涼介は「そうだ」と頷いた。彼の提案は自らが作る武器を独占販売しないかというものだった。
「ノーマルドラゴンのことは知っているか?」
「ドラゴン族で唯一だか数少ないザコでしょ。レベルは50だっけ?」
「ザコといっても同レベル帯のボスより強い。だから、ドラゴン族に関するクエストはザコでも1体倒すだけで完了なんだ。報酬もそこらのボスと大差ない、というかボスよりも多い」
区分がザコなだけで、ゲームではボスとして認識されていた。
「おそらくだが、俺はノーマルドラゴンを一撃で倒す武器を作ることが可能だ。しかも誰でも簡単に扱える代物だ」
「簡単に扱えるって、私でもいけるってこと?」
「そうだ。試していないから分からないけどな」
涼介は「興味が湧いてきただろ?」とニヤリ。
「興味はあるけど、実際に見ないとなんともだね」
「そう言うと思ったよ」
涼介は紙とペンを召喚し、必要な材料を書き記した。
「明日、いつも取引している場所にこれらを揃えてきてくれ」
「何この材料の山! 他所で揃えたら30万はするじゃん!」
「それだけ揃えてようやく武器を作れる。ドラゴンのクエスト報酬は75万かそこらだから問題ない」
コネットはそれ以上の質問はせず、「オーケー」と承諾した。
「じゃあ明日ねん。このコネット姉さんを落胆させたらお尻ペンペンだからね?」
「そうならないよう頑張るよ」
少しくらいならペンペンされてもいいかな、と思う涼介だった。
◇
翌日、涼介とシャーロットはコネットと合流した。今日のコネットはいつもと違って馬車に乗っていない。
「材料だけど、召喚するの面倒だからまとめて送るけど大丈夫だよね?」
「もちろん」
涼介に脳内に「取引の申請がありました」と機械音声が響く。念じることでそれに応じた。
「材料費は?」
「ちょうど30でいいよん!」
「はいよ」
涼介からコネットに30万ゴールドが送金され、コネットから涼介には大量の材料が送られた。それらは互いの脳内トレードで完結しているため、傍からは何の変化もないように見える。
「この脳内トレード、何度経験しても慣れないな」
「慣れるとか慣れないとかある?」
「涼介様は不思議なところがあるのです」
「流石は涼介マン!」
コネットとシャーロットがくすりと笑う。涼介と違って生まれた頃から脳内トレードが当たり前の彼女達にとって、涼介の発言は理解不能だった。
「トレードも済んだし早速行こっか! 涼介マン、私もPTに入れてよ!」
「え、冒険者じゃないのに?」
「失礼ねー、一緒に戦場へ行くんだから当然でしょ! 本業は行商人でも魔物のところへ行く時は冒険者よ! もちろんクエストも受けてきたからねん!」
「そういうものなのか」とシャーロットを見る涼介。
シャーロットは「さぁ」と首を傾げた。
「とりあえず申請しといたぞ」
「承諾したよん! よろしくね!」
コネットのレベルは思ったよりも遙かに高い45。涼介は彼女がどんなスキルを習得しているのか気になった。しかし、それ以上にドラゴンと戦いたくて仕方ないので触れなかった。
「行くぜ、ドラゴン退治だ」
「「おー!」」
三人は腕がいいと評判のテレポート屋に頼み、目的地に瞬間移動した。
◇
龍霊山――王都ラグーザから徒歩100時間以上の距離にあるドラゴンの住処だ。富士山の2倍に及ぶ標高の山で、周囲半径50kmは小麦色の雑草が生い茂る大平原になっている。
その平原にノーマルドラゴンは棲息していた。見た目は一般的なドラゴンそのもので、攻撃方法も口から炎の玉を吐く定番のタイプ。体長はサイクロプスと同程度だが、翼を広げた状態ではサイクロプスよりも大きく見える。
「ノーマルドラゴンのいいところはドラゴン種ってことだ」
涼介は前方で休憩中のドラゴンを指した。三人は大平原にポツンと佇んでおり、そこら中にいるノーマルドラゴンには見向きもされていない。
「どういうことですか?」とシャーロット。
「ドラゴン種だから群れることがないし仲間意識もない。仮に前方のドラゴンに攻撃を仕掛けたからといって、他のドラゴンが襲ってくることはないんだ」
ゲームの知識だが、この世界でも通用すると涼介は知っていた。他の冒険者や受付嬢から話を聞き、さらに図書館で魔物に関する文献を読み漁ったからだ。
「ドラゴンって自分からは襲ってこないの? 前で休んでいるドラゴン、明らかに私達のこと見ているよね」
これはコネットの質問だ。
「いや、襲ってくるよ。ドラゴンが先手を打ってくる条件は二つあって、一つは一定の距離まで近づいた場合だ。だから近づくと普通に攻撃してくる」
「もう一つは?」
「出張中の時さ。ドラゴン種は普通の魔物と違って縄張りの外に移動することがあるだろ。ああいう時は距離に関係なく襲ってくるよ」
ゲームではゴブリンジュニアのいる草原までドラゴンが来たこともある。しかもサービス開始直後だったため、倒せるプレイヤーがいなくて地獄絵図と化した。
「だから俺達はドラゴンが反応しないところから仕掛けるわけだ」
涼介は〈クラフト〉を発動して対ドラゴンの兵器を作った。
「これがドラゴンを殺す武器――ステンガーだ!」
「ステンガー? 私には鉄の筒にしか見えないけど」
「鉄の筒じゃねぇ。追尾機能の付いたミサイルだ。名前はステンガー」
「ミサイル?」
コネットが「なにそれ」とシャーロットを見る。
「私にも分かりません。涼介様の武器はいつも斬新なのです」
「実演してやろう」
涼介はステンガーを肩に担ぐ。狙うのは前方のドラゴンではなく空を飛び回っている個体だ。
「使い方は簡単だ。まずはこのボタンを押す。すると赤外線のレーザーが照射される」
「赤外線が何か分からないけど細い光が出ているね」
「このレーザーを対象のドラゴンに数秒間当て続けるんだ」
涼介が「すると」と言ったところで、ピッと音が鳴った。
「このように音が鳴ったら準備完了だ。後は引き金を引けばいい」
ズドォン!
涼介が引き金を引いた瞬間、強烈な発射音が響いた。砲口が火を噴き砲弾が発射される。砲弾は一直線に対象のドラゴンへ向かう。その速度はクロスボウの矢に比べて遙かに遅い。材料費を安く抑える為の制約によるものだ。
「グォ!」
迫り来る砲弾に気づいたドラゴンは回避行動を取る。高度を落としつつ横へ流れた。すると砲弾もその動きに合わせてカーブする。
「涼介マンの飛ばしたやつ、なんかドラゴンを追いかけてるよ!」
「あれが追尾機能だ」
ボォオオオン!
砲弾がドラゴンに命中し、空中で派手に爆発する。爆風によって付近の雑草が揺れた。
「ゴォ……」
派手に損傷したドラゴンが空から降ってくる。地面に激突する前に灰と化した。
「よし、倒せたな」
涼介は安堵してステンガーを確認する。こちらも彼の予想通り壊れていた。引き金部分しか残っていない。攻撃力と追尾性能に特化しつつ材料費の節約に努めた結果、耐久度を極限まで落とすことになったのだ。銃と同じである。
(思った通り、この世界の〈クラフト〉は普通に使える。制約を厳しくすればボスを一撃で倒すことも可能だ。ダメージの仕様がゲームと違うのも大きい)
キングサイクロプスとの戦闘によって、涼介はこの世界の仕様を完全に把握していた。なかでも彼が注目したのはレベル差補正だ。敵から自分に対してだけでなく、自分から敵に対する攻撃にも補正がかからない。従って、レベル差のある格上にも大ダメージを与えることができた。
「涼介様、流石です! レベルも一気に上がりましたね!」
シャーロットに言われて涼介は気づいた。自身のレベルが35から41まで上がっていることに。
涼介は「そうだな」と頷き、コネットを見た。
「それでどうかな? 俺の武器。独占販売する気になったんじゃないか?」
コネットの返事は決まっていた。
「乗らせてもらうわ、その話!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。