メタルドラゴン・オーダーメイド!
遊星ドナドナ
第1話「ご主人様」
俺は憎い。俺より上手く事を運べる他人が、業務を増やして押し付けてくる上司が、自身より「上」にいる友人たちが、馬鹿の一つ覚えのようにおだててくる親が。
そして何より、それらを愛せず、それどころか「そういうものだ」と流せない、意地汚い、卑怯で臆病な自分が嫌いだ。俺は『
『
ふと気が付くと、ベッドの上に寝っ転がっていた。可笑しいな?と青年は思った。その醜い死体を民衆の面前に晒さぬよう、また、借家を事故物件にしないように、わざわざ1時間かけて樹海に行き、首を括ったはずだ。
彼はそう思った。もしやあれは夢だったのではないか、いいやそれにしては首に食い込むロープの感触がやけに生生しかったな、と青年が不審がっていると女の声が聞こえてきた。
「お目覚めですか?
彼は目を見張った。美しい……というのもそうだが、何より普段町では見かけないような姿を女がしていたからだ。サファイアの如く蒼い、星を孕んだ目。精巧な
しかし、人とは明らかに違う要素も彼女は持っていた。それはドラゴンの様に、力強く、
だが、その異質な風貌とは裏腹に、彼女からは敵意は感じられず、それどころか友好的な雰囲気も感じられる。
「あなたが……助けたんですか?俺を?」
「えぇ、政府から頼まれたんです。といっても、よくある事なんですよ。あぁ、心配しないでください。別に取って食ったりはしませんから。」
女はそれが日常とでも言うように言う。
「そう……なんですか」
「喉が渇いたでしょう。お茶でもどうぞ」
青年は差し出された茶を飲みながら、自分の状況について考えてみた。しかし勿論、ここへ来た方法など分かるはずもなかった。ただハッキリしていることは、自分が今飲んでいる茶の温度だけ。
その熱さだけが、自分が『今を生きている』ということを証明していた。
「あの……あなたの名前は……?俺は……勇人っていいます」
「あら、まだ名乗っていませんでしたわね。
彼女はそう名乗ってニコリとほほ笑んだ。その微笑は「どうぞリラックスしてください」と語っていた。
「ディスティー……さん。ですか……あ、ありがとうございます。俺を助けてくださって」
お礼がしたい。いや、しなければならない。勇人はそう思い立った。別に目の前の不思議な女に一目ぼれしたから、とかそんな理由ではない。
そもそもその考えに理由などなかった。
恩を返すこと。それが自身に遺伝子レベルで刻まれた思考回路であり、存在意義の一つなのだ。そう彼は考えていた。
「あの……ディスティーさん。一ついいですか?」
「はい、なんでしょうか?もしやお茶の味がお気に召さなかったのですか?それともお飲み物自体が不要だったでしょうか?それとも……」
ディスティーはオロオロとしながら勇人に問いかける。勇人はそれを遮り、落ち着かせるように声を掛けた。
「あぁ、いや!違うんです。不満とかじゃ全然無くて、俺、あなたにこの恩を返したいんです」
彼の口から出た言葉をキョトンとした顔でディスティーは反芻し、少しの間、沈黙した。そして、少し驚いて
「恩返し?ですか?私に?ですが私は政府に従ったまで……」
「いや、いいんです。俺の気が済まないんで」
「そうなんですか……?でしたら……」
ディスティーは未だ困惑しながらも、あれこれ考えている。三分程経っただろうか?彼女は少しおずおずと勇人に自身の要求を伝えた。
「では、少々厚かましいようですが、
…………?勇人の頭に浮かんだのは大量の「……」と「?」。どういうことだ?訳が分からない。そんなセリフが、頭の中をまるでF1レースのように高速で廻る。ヴゥン、ヴゥゥン。脳が、フォーミュラーカーの様に単純かつ強力な「ご主人様」のワードが走り回るのに耐えきれず、重音を出す。
「えーと……その『ご主人様』っていうのは……?」
「はい!文字通り私のご主人様になって頂きたいのです!!」
ディスティーは興奮しているのか、その綺麗な鼻を、ふんす、と鳴らして膨らませている。
「どういうことですか……?あなたは一体……?」
勇人のその言葉の意味が一瞬理解出来なかったのか、キョトンとするディスティー。やがて、あっ。という顔をした。
「もしかして、メイドが現存しない
「は……はぁ……」
「そして我々メイドたちは『ご
「なるほど……大体は分かりました」
なるほど、『ご主人様』とそれに仕える『メイド』の共生関係……納得はいく。しかし、と勇人の頭の中に一つの新しい疑問が生まれる。
「なぜディスティーさんにはマスターがいないんですか?」
すると、ディスティーは悲しげな表情を浮かべ、こう言った。
「私は、ご主人様に……、捨てられたんです。五年ほど前に」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます