第9話 宿

 夕日が街を茜色に染め、やがて夜がやってこようとしていた。


 今から長い道のりを歩いて帰る気にもならず、ローガンとエミーリアは街中にある安宿に泊まることにする。


 宿泊の手続きを済ませ、部屋に入った二人。ローガンはエミーリアに向かって跪いて首を垂れた。


「申し訳ございません我が主。不要な注目を集めてしまいました」


「うん……まあ予想ができたトラブルね。私も少し反省してるわ。いくら隠居の身とはいえ、アナタはいくつもの異名を持つ有名人……素顔のまま動けば目立ってしまうのは当然……」


 エミーリアはフードをおろし、自身の角をなでながら思考する。


「単純な手だけど、しばらく仮面をつけてもらえるかしら。多少は目立つだろうけど、 ”なにやら隠居したはずの守護騎士が動き出したらしい”って噂されるよりはましなはずよ」


「仰せのままに。早速明朝に仮面の準備をいたします」


「ええ、早いほうがいいわ。まあ、ギルドのことはもうしょうがない。結果的に情報を得られたわけだしね」


 そしてエミーリアは可愛らしくあくびをすると、備え付けのベッドにゴロンと横になる。


「もらった本でめぼしい犯罪者の情報を確認しておいてくれる? アタシは少し疲れたから先に寝るわ」


「かしこまりました。ゆっくりとお休みなさいませ我が主」


「ええ、あとは任せたわ我が騎士」





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